漢文問題読解・解説『法苑珠林』(ほうおうじゅりん)[大学受験漢文過去問解説シリーズ]

今回は2020年度の立命館大学の全学部の国語の過去問を一部修正して漢文問題の解き方を解説していきたいと思います。 

 

法苑珠林』(ほうおうじゅりん)とは 

中国唐代の仏教書。100巻からなり、長安西明寺の道世の著作。仏教の思想・儀礼などを内容的に分類し、豊富な引用によって項目別に概観したものです。 

問1

傍線①の「嘗」、③の「益」の読み方を、送りがなも含めて、それぞれひらがなで書きなさい。

【解答】
①「嘗」かつて
③「益」ますます 

それぞれの意味は以下のようになります。 

「嘗」かつて

  1. 過去のある一時期を表す語。以前。昔。 
  2. あとに打消しの語を伴って用いる)今まで一度も。ついぞ
  3. あとに打消しの語を伴って用いる)まったく。全然

益」ますます…程度が一層はなはだしくなるさま。いよいよ。 

問2

傍線②の「且不識法安不肯受之」の書き下し文として、最も適切なものを、次のなかから選びなさい。 

1、且つ法安の之を受くるを肯んぜざるを識らず
2、且つ法安を識らず、之を受くるを肯んぜず
3、且つ識らず、法安之を受くるを肯んぜず
4、且に法安の之を受くるを肯んぜざるを識らざらんとす
5、且に法安を識らざらんとし、之を受くるを肯んぜず
6、且に識らざらんとし、法安之を受くるを肯んぜず

【解答】2、且つ法安を識らず、之を受くるを肯んぜず 

それぞれの語句を見ていきましょう。 

且」

且に」と返読文字で読む場合は「且に〜す」の形で「〜しようと思う」(意志)の意味になります。 

「且つ」と読む場合は
副詞…(「…かつ…」または「かつ…かつ…」の形で)二つの行為や事柄が並行して行われることを表す。一方では。
接続詞…ある事柄に他の事柄が加わることを表す。そのうえ。それに加えて。

識」

  1. しる。考える。さとる。物事の道理を見分ける。 
  2. 知ること。考え。
  3. 知り合いになる。知り合い。
  4. しるす。しるし。

肯(がへにす)」…承諾する。同意する。

「識」「肯」には返読文字の「不」がついているのでそれぞれ「識らず」、「肯んぜず」と否定の意味を伴う語になります。

選択肢4、5、6の「且に」返読文字と読んだ場合、対応する語句は「識らざらん」ですが、「〜しようと思う」の意味に当てはめまりません。よって選択肢4、5、6は不正解となります。この場合は「且つ」のが相応しいでしょう。 

また、傍線②の前を見ると「民以懼虎、早閉門閭」(書き下し:民虎を懼るるを以て、早に門閭を閉ぢ)民は虎を恐れて村の入り口を早々に閉じてしまっていることがわかります。虎を恐れる村人に対し且つ」ということなので、それに加えて村人は法安のことを知らないと捉えるのが自然であり、「」が示すのは法安です。 

法安を知らず、法安が来ることも民は承諾していません。よって答えは2になります。 

問3

( あ )に入れるのに、最も適当なものを次のなかから選びなさい。 

1、怒
2、泣
3、喜
4、恥
5、悟
6、驚

【解答】6、驚 

( あ )の前を見ると、「至旦村人追死者、至樹下、見安」(書き下し文:旦に至り村人死者を追ひ、樹下に至り、安を見て)とあります。村の入り口を閉めたため、次の日には虎に殺されてしまったと思っていた法安が生きていたことを知ったということがわかります。その心情に相応しいのは「6、驚」になります。 

問4

本文の内容に合うものを、次のなかから一つ選びなさい。

1、陽新県では虎による被害が深刻なため、人々は神廟を築いて祈ったが効果がなかった。そこで法安を招致して説法を聞き戒を受け、大社の樹下で座禅をすると、虎の害は無くなった。
2、虎の害を恐れるあまり、陽新県の村の人々は、誰も門を開けて法安を迎えようとしなかった。そこで法安は樹下で夜を明かしたが、そこへ虎に襲われた男たちが逃げてきて助けを求めた。
3、陽新県の人々は、虎の害を根絶した遠法師を讃えようとその像を山の岩壁に描こうとしたが、絵の具がないので困っていた。すると夢に現れた法安により絵の具のありかを告げられた。
4、虎の害は陽新県ばかりか全土に広がりを見せていたため、遠法師は弟子の法安を各地に行かせて、命を守るための方法を人々に説いて回らせたが、その効果はまず陽新県の村に現れた。
5、法安が陽新県を訪れた時、村人は虎を恐れて門を開けてくれなかった。樹下で座禅する法安に近づいた虎は、法安の前ではおとなしく説法を聞き戒を受け、それ以後は虎の害が収束した。

【解答】5 

問題文の箇所を引用し説明していきます。 

・法安怪之樹下坐禅、通夜向暁。(書き下し文:法安怪ちに樹下に之きて坐禅し、通夜して暁に向んとす。)⇨夜通し座禅しているのは法安です。 

・安為説法授戒、虎距地不動、有頃而去。(書き下し文:安為に法を説き戒を授くるに、虎地に距りて動かず、頃有て而去る)⇨法安が説法を説き、戒を授け、虎はうずくまって話を聞いています。 

・夜夢人怪其牀前云〜(中略)〜安明即堀得、遂以成像。(書き下し文:夜夢に其の牀前に人怪きて其の牀前に云ふ〜(中略)〜安明くるに即ち堀り得て、遂に以て像を成す)⇨夢に絵の具のありかを教えてもらい、掘り起こしたのは法安です。 

以上の点を踏まえ、相応しいのは「5、法安が陽新県を訪れた時、村人は虎を恐れて門を開けてくれなかった。樹下で座禅する法安に近づいた虎は、法安の前ではおとなしく説法を聞き戒を受け、それ以後は虎の害が収束した。」です。

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参考

立命館大学