中学受験の理科の分野の中で、物理分野に苦手意識を持つ受験生は少なくありません。物理分野の中にもいろいろな単元がありますが、電気に関する問題は特に苦手とする受験生が多いところです。実験などの実体験を経験していないわけではないのですが、さまざまなパターンがあるので、すべて実験で経験するわけにはいかないため学習しきれておらず、実際の電流の流れを目にすることもできないので、イメージがつかめないことが大きな原因だと考えられます。
また、電気に関する問題は計算問題が非常に多いところです。そうすると、「数字探し」に走ってしまい、原理原則をおろそかにしてしまって、結局のところ不正解になる、ということがよくあります。最終的に計算問題を解けるようになる必要はもちろんあるのですが、決して複雑な数字が出るわけではなく、基本的な知識を十分に理解していれば解けるものが多いのです。
学習する時期が遅いということもあり、基本的な知識、原理原則を十分に理解できていないまま計算問題だけ大量に解く・・・そのような学習では、数字を変えられたり、聞き方を変えられたりすると全く違う問題に見えてしまい、手が付けられずに終わってしまうということもあります。
そのような電気の問題でも、基本的な知識、原理原則そのものは決して難しいものではありません。「電気のところは難しい」と思い込んでしまい、最初から腰が引けてしまう受験生が非常に多いのです。だからこそ、基本的な知識をしっかり理解し、基本となる形の問題の仕組みを理解すれば、一気に差をつけられる分野でもあるのです。
前回は、電熱線の問題について、基本的な知識をまとめました。今回は、実際の入試問題を例にとーって、どのように知識を使っていけばよいのか、「使いこなし方」について理解を深めていきましょう。
例題1ー電流と電圧、水の温度の関係
まず、基本的な比例・反比例の考え方を多く使う問題を使って知識を整理し、実際にどのように使うのかまとめてみましょう。例題は、女子学院中学の2016年度入試の問題です。
表や図がたくさんあるので、どの問題にどれを使えばよいのか整理するのによい問題です。順に問題を見ていきましょう。
1.(答え)2倍
表1をしっかり見ると、たとえばアの2.5㎝の長さで電圧を2倍、3倍に、1.5V→3V→4.5Vとしていくと、電流は0.5A→1.2A→1.8Aというように、2倍、3倍に変化していることがわかります。2倍、3倍というのは複雑な数字ではありませんから、計算問題といっても表から読み取れる、難しい考え方は必要ない問題だということがわかると思います。
2.(答え)2分の1倍
この問題も、1の問題と同じように、表1を良く分析すると理解できます。たとえば、1.5Vの電圧の場合を見てみましょう。長さを2倍、3倍に、2.5㎝→5㎝→7.5㎝としていくと、電流は0.6A→0.3A→0.2Aというように、2分の1,3分の1と変化していることがわかります。反比例の関係ですね。それに気づけば、難しい問題ではありません。
3.(答え)2分の1
これは、表2を分析する問題です。電熱線の長さを2倍、3倍に2.5㎝→5㎝→7.5㎝としていくと、上昇した水の温度は、6℃→3℃→2℃というように、2分の1,3分の1に変化しています。これも反比例の関係です。電気の問題は比例、反比例の関係が多く出てきます。比例、反比例の考えについてはしっかり理解しておく必要があります。
4.(答え)4倍
これは、表3を分析する問題です。電圧を2倍、3倍に、1.5V→3V→4.5Vとしていくと、上昇した水の温度は0.5℃→2℃→4.5℃というように、4倍、9倍に変化していることがわかります。
5.(答え)①0.75℃ ②13.5℃ ③6℃
表1.2.3をまとめると、以下の表のようになります。
電圧と電流は比例の関係、長さと電流は反比例の関係、長さと水の温度の上昇は反比例の関係にあることがわかります。電圧が2倍、3倍になると、水の上昇温度は4倍、9倍になります。
そこで、③についてですが、イの5㎝の電熱線の3Vで3℃上昇するときと比較して考えるとわかりやすいと思います。長さ10㎝で6Vの電圧ですから、長さは2倍になるので、上昇温度は2分の1になり、電圧は2倍になるので、上昇温度は4倍になります。
そこで、計算式は、3×2分の1×4=6
となります。
例題2ー電池のつなぎ方、電熱線のつなぎ方、電流の関係
これも、女子学院中学の2016年度の入試の問題です。
問1(答え)直列つなぎ
これは基本的な知識をそのまま問う問題です。一見まがって見えるので、知識に自信がないと間違えてしまう可能性がありますが、サービス問題といってもいい問題です。
ただし問題文の読み違いには注意が必要です、聞かれているのは「電池のつなぎ方」です。「電熱線のつなぎ方」ではありません。ケアレスミスに要注意の問題です。
問2(答え)①2 ②0.5 ③1 ④2
表1を落ち着いて分析すれば、難しい問題ではありません。
A点の電流は300㎃、B点の電流は150㎃ですから、電熱線を2本直列につなぐと電流は2分の1になります。一方で、並列につないだ電熱線D、Eはともに300㎃で、電熱線1本のときと同じで、枝分かれしていないC、F点の電流の大きさは600㎃となり、2倍ということになります。
表を分析したうえで、設問の文章を穴埋めしていく問題なので、スピードと電流の計算の正確性が必要です。とはいっても、計算自体は難しいものではないことがわかると思います。材料になる数字はどれかを正確に拾ってきて、きちんと計算すれば十分に正解できる問題です。
問3(答え)電熱線を太くすることは、電熱線を並列につなぐことと同じことで、また、電熱線を短くすることは電流の流れにくいところの長さを短くすることと同じことだから。
電流の流れにくい電熱線を直列につなぐと、電流が流れにくくなっており、並列につなぐと、流れやすくなっていることがわかります。この考えを、解答の説明に含めるようにします。書き方に迷ったら、問2の設問の文章を参考にしてまとめるといいでしょう。決して難しいことを書く必要はありません。書く必要のあることを正確に書き出してみて、読んだ人がわかりやすい簡単な文章にまとめることを意識しましょう。
まとめ
電気の問題は難しい、計算問題は見ただけでダメ・・・そのように思い込んでいませんか?今回の例題を見てみてどうでしたか?計算問題といっても比例、反比例の関係を理解しておけば、2倍、3倍や2分の1,3分の1、とけっして細かい(汚い)数字になるとは限りません。むしろ、単純な解答になるということの方が多いです。
ですが、計算問題に挑戦するためには、基本的な知識をしっかり理解しておく必要があるということはわかっていただけたのではないでしょうか。基本知識をイメージも含めてしっかり理解しないと、本来は単純なものが急に複雑に感じられてしまいます。そこが電気の問題の落とし穴です。
電気の通り道や流れる様子は目には見えませんが、もし電気の問題がどうしてもできない、白紙で出してしまう、という方は、ぜひ図やイラストを自分で描いてもう一度確認してみましょう。この時期にそんな簡単なこと・・・と思われるかもしれませんが、基本に戻るということはそういうことです。めんどうがらずに図を描いたもの勝ちです。
また、比例や反比例の考え方が関係する問題が多いことは先ほども書きましたが、計算自体は決して難しくありません。大切なのは、表やグラフ、図を見て、そこに書いてある数字の関係をしっかり分析できるかどうかです。その数字も決して複雑なものではありません。表やグラフ、図など、問題に書かれている資料は、問題を解くうえでの大きなヒントの集まりです。それをしっかり使いこなして、「電気の問題は難しいから」という苦手意識を少しでもなくしていきましょう。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。