中学受験の勉強をしているお子さんのなかには、理科が苦手というケースが多く見られます。本格的に理科の勉強が始まるのは4年生の終わりからになりますが、5年生、6年生ともなると一気に学習範囲が広がるだけでなく、内容も化学分野や物理分野を含め、計算問題や記述問題など難易度の高い問題が増えます。それに伴い、学習する内容も非常に難しくなっていきます。
そのような経緯で理科の勉強を進めていくため、5年生、あるいは6年生になってから理科がわからなくなった、理科をどう勉強したらいいのかわからない、という受験生は非常に多いです。急に内容が深くなって理解が難しくなったり、頭の中で考えるだけでは理解が進まないというのが理科が苦手になる原因のひとつだと言えるでしょう。
中学受験の理科の問題は、問われている知識自体はそれほど細かいものではありません。ですが、たくさん問題を解いているうちに、原理原則から離れてしまって、その問題の解法パターンだけを覚えるという勉強法に走ってしまうお子さんも少なくありません。また、塾で学習する際も基本となる原理原則はテキストで自分で読んでおくようにと指示され、解説は問題中心なのが現状です。それがまた理科嫌いに拍車をかけてしまう原因です。
中学受験は、算数などの1教科入試や算数・国語の2教科入試などもありますが、まだまだ4教科受験校が多くを占めます。算数や国語の方が配点が高い傾向がありますが、4教科同じ配点という中学校もあるため、対策は十分にしておく必要があります。ですが、理科に苦手意識を持ってしまうと正解できる問題が少なく、学校によっては教科ごとに最低ラインを設けていることもあるので、理科1教科の点数が低いことによって不合格になってしまうことにもなりかねません。
算数・国語でしっかり点数を取って、理科・社会で点を重ねて差をつけて合格するのが中学入試の王道パターンです。そのため、無視できないのが理科の知識の正確な理解と使いこなす能力です。今回は、受験勉強が本格化する前の4年生のうちに理科に苦手意識を抱くことがないよう、注意したい点を解説します。
Contents
理科は教科書が基本のキ
皆さんは、理科という教科はどんな教科だと思いますか?ただ植物や動物の名前を覚えたり、化学や物理の計算問題を解いたり、天体の動きを覚えたりする教科だと思っていないでしょうか。
理科の基本は「なぜ?」
理科の基本は「なぜそうなるのか」という疑問を持つことです。さまざまな現象について、「なぜ?」と思うことを、いつの時代も共通の原理原則を使って解き明かし、答えを探っていくのが理科という教科の本質です。そこでは、科学に対する関心と、科学的な思考力が不可欠です。理科の「理」は原理の「理」、あるいは理由の「理」と言っても良いでしょう。
近年の理科の中学入試問題で求められる力
大学入試改革の影響を受けて、近年の中学入試の理科の問題の出題傾向は変わりつつありますが、ひとつの特徴として、基本的な科学的思考力や原理原則の理解を問うという問題が増えていることが挙げられます。理科は科学現象を理由とともに解き明かしていく教科ですから、理科に苦手意識を持たないためには、4年生の早い時点から、各単元に出てくる基本的な原理原則を正確に、深く理解することが重要です。そして身につけた原理原則を問題ごとに適切に使いこなせるようにまでなることが求められます。
学年が上がるごとに、1つの単元で取り組む問題の数は増えていきますが、原理原則がわかっていなければ解くきっかけすら見つからないので、不正解を連発してしまい、勉強してもしても成績が下がってしまうのも理科に苦手意識を持ってしまう原因です。ですが、反対に言えば、基礎基本となる原理原則をしっかり理解していれば、初めて見たような問題であっても、どの原理原則を使えばいいかということがわかってきます。だからこそ、原理原則を大切にする基本姿勢こそが理科を苦手にしないためにとても重要なのです。
中学入試問題では教科書の理解度が問われる
中学受験の理科というと、塾のテキストを覚えていくものだと考えておられる受験生や保護者の方が多いのですが、実はそれだけではありません。塾のテキストはこれまでの入試で出題された問題から逆算して作問されていますが、原理原則の部分についての解説は割とさらっとしています。塾のテキストの解説部分を覚えたとしても解けない問題が多いことからもそれは明らかでしょう。
塾の授業で原理原則についての解説に時間を割いてくれれば理解度も深まるでしょうが、毎週のカリキュラムでは必ず解かないといけない、解説しないといけない問題が決まっているので、どうしても問題演習が中心となってしまいます。ですが、理科の問題の基本にあるのは原理原則や仕組みの理解なので、その部分が不十分だと、テキストにある問題を解くのは難しいでしょう。それでつまずいてしまっている方も多いはずです。
実は、近年特に、中学入試の理科では、学校の教科書の内容の深い理解が問われる傾向にあります。中学入試ですから、小学校の教科書レベルの内容は完ぺきにしてきてね、という中学校からの希望が現れているとも言えるでしょう。出題される問題はパッと見ると教科書とはかけ離れた難しいことが要求されているように思えるかもしれませんが、実はそうではありません。教科書に出てくる原理原則や実験手順、実験結果、考察などの深い理解が要求されていることに気づくことができれば、理科の学習は格段にはかどります。
特に、昆虫や動物の分類、植物の分類、月の満ち欠け、実験道具の名称や操作方法、実験の手順、電流などの単元は、入試でもよく出題されるところですが、受験生が苦手とするところでもあります。それはなぜかと言うと、教科書をおろそかにしてしまっているからです。中学入試では教科書をおろそかにしている受験生とそうでない受験生をふるいにかける傾向にあります。入試で良く出題されるのは、「差がつく」単元だからなんですね。
このような単元は、小学校の教科書でもページ数を割いて、しかもカラーの図入りでわかりやすく解説してくれているので、やはり教科書は塾のテキストの問題を解く前にしっかり理解を深めておきたいところです。また、カラーであること、図や表がしっかり入っていることは、ビジュアルから理解を深めてくれるので、最高の参考書と言っても良いでしょう。だからこそ教科書の理解が大切なのです。
どうしても丸覚えしようとするとキーワードだけを覚えて、なぜそうなるのか、ということから目が離れてしまいがちです。ですが、それでは原理原則への理解は深まりません。男子最難関校の筑波大学附属駒場中学校に合格したある生徒は、教科書のあの図の下に書いてあった説明の問題が出た、と言っていたことがあります。図もパッと見てイメージだけをつかむだけではなく、なぜそのようになるのかという疑問を持っていれば説明部分も読んでしっかり理解しようと思うことができるでしょう。
原理原則を理解すれば暗記量はそれほど多くない
理科は、「なぜそうなるのか」が出発点ですが、原理原則をしっかり理解できれば、実は暗記の総量はそれほど多くありません。もちろん覚えなければいけないことはそれなりにありますが、原理原則を応用することによってその場で考えられることもあるので、考える教科であっても暗記のみの教科だとは考えない方が賢明です。
たとえば、動物の分野で、「昆虫」とは何でしょうか?昆虫の定義は「体が頭・胸・腹の3つに分かれている」「脚が6本ある」の2つです。よくある基本問題に、いくつかの虫や動物の図が示されて、「このなかで昆虫はどれですか」というものがあります。模試などでも一行問題で出題されることも多いですが、意外に正答率が悪いのです。
ですが、昆虫の2つの定義だけ知っていれば解ける問題ですよね。原理原則に基づいて、図示された虫や動物の体のつくりを観察して分類すれば解けます。いちいちゴキブリは昆虫だとか、ダンゴムシは昆虫ではないとか、一つひとつの生き物について昆虫かどうかを暗記する必要はないのです。原理原則を押さえていれば、あとはそれに当てはめればよいのです。
理科は暗記さえすればなんとかなる教科だと思われる方が多いのですが、暗記も必要ではあるものの、原理原則の正確な理解こそが成績を上げてくれるポイントです。そして、原理原則の数自体はそれほど多いものではありません。だからこそ、その理解が正確であれば、暗記量を大きく減らすことができるのです。
「電気」はその性質を理解すれば大丈夫
物理分野の「電気」のところを苦手にする受験生は非常に多いです。乾電池や豆電球の実験をした経験は皆さん持っていますが、電流自体は目に見えませんよね。また、どのように配分されているのか、分岐点を目で見ることができないので頭の中だけで考えてしまい、理解が進まないのです。また、電気が苦手になる原因として、4年生の間には「電気抵抗」の概念を学ばないので、それも電気が苦手になる原因となっていると言えるでしょう。ですが、学年が進むごとに問題では抵抗(流れにくさ)がつきものなので、理解していないと1問も解けない、ということになりかねないので早めに押さえておきたいところです。
よく使う電気の原理原則の例を考えてみましょう。たとえば、1個の乾電池に2個の豆電球を「直列」につなぐと、豆電球が1個の時に比べて、2つの豆電球は暗くなります。なぜこうなるかというと、豆電球には「抵抗」(電流を流れにくくする力)があるためです。普通だったら障害物なしに流れていく電気を途中で止めてしまうわけですね。そのため、豆電球を1本の電気回路上に2個つなぐと、1個の場合に比べて電流の流れにくさが2倍になります。そうすると、流れる電流が2分の1になって、豆電球は暗くなるわけです。また、乾電池を2個「直列」つなぎにすると、今度は「電圧」(電流を流そうとする力)が2倍になるため、1つの豆電球に流れる電流が乾電池が1個のときの2倍になるので、豆電球は明るくなります。
こういった実験を学校でやったことは皆さんあるのではないでしょうか?中学校では「オームの法則」として習いますが、中学受験のテキストでもオームの法則は出てきます。根本的な理解はまだ難しいかもしれませんが、4年生の段階では、豆電球を直列つなぎにした場合と並列つなぎにした場合、また、乾電池を直列つなぎにした場合と並列つなぎにした場合の、それぞれの豆電球の明るさ(流れる電流)がどうなるか、をしっかり理解しましょう。
もし可能であれば、抵抗(電流の流れにくさ)と電圧(電流の流れやすさ)とはどういうことなのか、直列回路上で流れる電流はどこの地点でも常に同じだという基礎基本の原理を理解しておくと、5年生や6年生になってからの学習が非常にスムーズになります。原理原則を覚えれば暗記の総量は減りますが、原理原則そのものの理解が少し小学生にとっては高度なので、最初のうちは保護者の方がわかりやすく説明してあげることをおすすめします。塾では、あまりそういった原理原則を丁寧に教えない傾向があるので、そういう部分こそぜひサポートしてあげてください。
「月の満ち欠け」の原理原則は早めに理解しておこう
化学や物理分野は計算問題がたくさん出題されるので難しいと思われがちですし、生物分野は暗記することが多いというイメージがあり、その合間で地味な存在なのが「地学」の分野、つまり天体に関するところです。地学分野は、特に首都圏ではあまり夜空を見上げる習慣がないかもしれないこともあり、ニュースになるよ宇な天体ショーを除き、原理原則の理解がおろそかになりがちなところです。また、見える時間と見えない時間があることも理解を妨げる一因になっています。だからこそ、科学的思考力がとても重要な分野と言えるのです。
天体というと、月の満ち欠け、太陽と月や惑星の関係、星の動きなどがありますが、特に月の満ち欠けのところは科学的思考力がものを言います。太陽や地球との位置関係によって月の満ち欠けという現象が起こるということを、まずはお子さんが十分納得するまでしっかり理解するようにしましょう。
月の満ち欠けについての原理は、小学校の教科書にも図解でわかりやすく説明されているので、そういった図を「なぜこうなるの?」と考えながら順を追って理解していくと良いでしょう。また、実際に家庭にあるもので実験するのもおすすめです。ボールを月に見立てて、懐中電灯を太陽代わりにして、どのように月が照らされるのか実験してみると、体験を伴うので4年生であっても十分理解できます。
地学分野で最も大切なのは「実体験と知識を重ねること」です。月の満ち欠けについてはご紹介したような方法で実験してみたり、星の動きに関しては夜空に星座早見盤を重ねて移動してみるだけで理解度がずいぶん変わります。「あ、こういう仕組みなんだ!」と現象を理解できたとき、原理原則が身につくのです。
もし、お子さんが問題を解く様子を見て「理解があやふやかも・・・」と思われた場合は、ぜひ保護者の方が一緒に考えてみてあげてください。原理原則を理解できると達成感がありますし、学習意欲も増します。何より、解ける問題が格段に増えるので、科学的思考力も身につきます。「こういうことだったんだ」と納得することが理解への早道です。
暗記をするなら徹底的に
原理原則を理解すると、暗記の総量はそれほど多くないことがわかります。それでも、それぞれの分野でどうしても暗記しなければいけない、科学的思考力では解決できないことはあります。そういう部分を持って理科は暗記の教科というのもまた真実です。
ただし、やみくもに頭から暗記しようとしてもすぐに忘れてしまいます。せっかく暗記に時間をかけるのなら、かけたなりの成果が欲しいですよね。一番暗記の効率を落とすのは、原理原則が理解できていないのに、「太陽と月の位置がここだから三日月になる」といったようなパターン暗記です。
原理原則がわかっていないということは、暗記事項の意味もわかっていないはずです。理解できていないのにただパターンを唱えて暗記するのは苦痛ですし、すぐに忘れてしまいます。塾ではカリキュラムの都合上「ここはこの通り覚えておいて」と指示されることがありますが、それではお子さんひとりで対処しきれません。暗記にも原理原則の理解が不可欠だということを踏まえて、保護者の方、または個別指導などで原理原則とセットで土台をつくることが大切です。
まとめ
4年生の段階ではまだそれほど本格化していない理科の学習ですが、原理原則を応用できる科学的思考を身につけるために、4年生の時期は非常に大切です。原理原則を理解し、使いこなすことによって「なぜそうなるのか」を解決していく教科だということを理解し、その思考法を身につければ、知識は増えてきます。お子さんの好奇心も理科にはとても大切です。お子さんの理解度に合わせながら、原理原則が何よりも大切だということを理解し、パターン暗記にならない学習の土台を作りましょう。その先の学習が楽しくなりますよ。
<関連記事>
一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。