中学受験の理科は、生物・地学・化学・物理の4分野がありますが、入試ではこの4分野からまんべんなく出題されることが多いです。ただし、最近の理科の入試の傾向として、完全にひとつの単元だけについて聞く、という大問は減りつつあり、大問の中でいくつかの分野にまたがった設問があったり、時事問題と絡めた出題があったりするなど、出題が複雑化していることをご存じでしょうか。
入試で特に頻出の単元としてたとえば「地震」がありますが、これは本来物理分野の単元です。しかし、地震に伴う津波や土石流、火山の噴火などといった地学的な知識もすぐに出てくるようでなければ太刀打ちできない、分野融合型の単元だと言えるでしょう。日本人はみんな地震を経験していますが、地震の動きを目で見ることはできません。気象庁の発表などによってあとから波形を見ることはあるかもしれませんが、波形も紙上に記録されたものであり、地震が起きた瞬間というのはその仕組みを目にすることは難しいです。
そのため、地震の単元を苦手とする受験生は少なくありません。しかし、最近でも大きな地震は頻発していますし、地震のニュースも目にしますよね。東日本大震災が起こってからかなり立ちますが、今後関西地方や関東の首都直下型地震がいつ起きるかということも念頭に災害対策をしている方も多いのではないでしょうか。
地震国日本では、地震の仕組みを知らずに生活することはできません。そのような警告も含めて地震について興味を持ち、どのような災害なのか、なぜ引き起こされるのか、その際にどう行動すればよいのか、出題側も練りに練った問題を出題してきます。そのため、どちらかと言うと地震の問題は難しくなる傾向にあります。
身近な現象だからこそよく出題される地震。今回は、火山や地震、そしてそれに関係する時事問題についても、押さえるべきポイントをご紹介します。しっかり基本事項をまとめ、原理原則を理解しておきましょう。
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原理原則を固め、データの読み取りと時事問題対策がカギ
地震や火山を題材とした問題では、いわゆる知識単体を問うような1問1答形式の問題は、難関校を中心に減少傾向にあります。逆に増えているのは、地震や火山に関する表やグラフなどの分析と結果のまとめについて問う問題です。
表やグラフの読解問題はある程度出題傾向を絞ることができますが、実際に問題を解く際には、現象が起きる原理原則といった基礎知識が欠かせません。これは理科のどの単元でも言えることですが、起こっている現象はどういうものかをとらえること、そして原理原則をしっかり理解しておくことは非常に重要です。まずはそういった基礎をしっかり固めてから問題演習をおこない、過去問を使って実際に出題される問題の傾向に合わせた勉強をしていくというステップを踏むことをおすすめします。
また、地震と火山については、時事問題と絡めて出題されることが非常に多いです。ニュースで報道されていたことについてはしっかり確認しておきましょう。中学入試では、あるできごとから○○年、といった節目の年のできごとを取り上げる「周年問題」が出題されることがあります。2020年は1990年の雲仙普賢岳の噴火から30年、1995年の阪神淡路大震災から25年の節目の年でした。そのため、2021年度の入試で出題される可能性があります。
周年問題を意識しすぎて細かい知識を暗記する必要はありません。それぞれどのような災害だったのか、影響がどのようなものだったのか、できごとの起こった原理原則までさかのぼって振り返っておきましょう。
問題演習をしていると、どうしても図表の読み取りに手間取ってしまったり、時事問題の細かい知識を覚えなければいけないと焦ることがあるかもしれません。そうすると、暗記しなければならないことが多すぎる!と思うでしょうが、実はそれほど暗記事項は多くありません。押さえるべきは現象の原理原則という基礎です。どんな応用問題でも、基礎を飛ばしてはまず解けません。まずは原理原則を固めましょう。
火山:マグマの性質と火山の形、火成岩の種類は必須知識
地震の前に、セットで出題されやすい火山の問題についてまとめておきましょう。火山の問題を解く際に必要な基礎的知識として重要なものは、「マグマの性質」「火山の形」「火成岩の種類」です。これらは必須知識です。
噴出したマグマの性質によって、出来上がる火山の形は異なります。また、マグマが冷えてできた岩石のことを火成岩と言いますが、火成岩は、地表付近で急激に冷えることによってできる「火山岩」と、地下深くでゆっくり冷えてできる「深成岩」とに大別されることを知っておきましょう。
また、火山岩と深成岩は、それぞれ含まれる鉱物の種類やその割合などによって、3種類ずつに分かれることも覚えておきましょう。なかでも、「花こう岩」や「玄武岩」など、代表的な岩石については特徴も含めてまとめて覚えることをおすすめします。
また、火山の問題は、社会との融合問題という形で出題されることが良くあります。社会では日本の火山の分布を習いますよね。理科で融合問題として出題される場合には、日本地図にさまざまな火山の位置が示され、説明文を読んでどの火山なのかを答える問題がよく出題されます。日本の主な火山の場所と特徴は、日本地図をしっかり見てぜひ覚えておきたい知識です。
地震:P波とS波の特徴、発生の仕組みを理解
では、地震の入試問題の特徴について考えていきましょう。地震は、初期微動(P波、地震のはじめに起こる小さな揺れのこと)と主要動(S波、あとから続く大きな揺れ)、初期微動継続時間(P波が到着してからS波が到着するまでの時間)を取り上げる問題がいわば定番問題となっています。
地震でよく出題される問題とは
地震計が記録した波形グラフや、ある地点における初期微動や主要動がはじまった時刻を表した表やグラフが示され、これらのデータを読み解き、分析しながら設問に答えていくというのが地震の入試問題のオーソドックスな形です。具体的には、たとえば以下のような問題がよく出題されます。
- P波やS波の速さを答える問題
- 震源までの距離を計算する問題
- P波やS波の到達時刻を考える問題
- 地震の発生時刻を答える問題
このような問題を正確に解くためには、「P波とS波の特徴」「震源からの距離と初期微動継続時間が比例すること」「テキストでよく取り上げられている基本的な地震の図やグラフの理解」がとても大切です。どれも基本的なことなのですが、実はこうした形でまとめてもらえることは塾では少ないので、視点を変えてみましょう。
知識の丸暗記では解けない
従来は、地震の波の速さは、P波が秒速8km、S波が秒速4kmという前提で問題が作成されるケースが多く見られました。しかし、実際に起きる地震の場合、波の速さはそれぞれ微妙に異なるものです。そのため、現在では、問題ごとにリード文の中で地震の波の速さが示されていたり、表やグラフなどのデータから計算して自分で速度を出してから考察するといった問題が増えているので注意が必要です。
つまり、単に地震の波の速さを暗記していても太刀打ちできない問題が増えている、ひと手間加えなければいけない問題が増えているということです。丸暗記した情報で回答するのではなく、リード文や条件、データを正確に読み取り、分析して整理する、そんな理科の解法の基本をおろそかにしてはいけません。
地震の波についての問題はまず必ずと言っていいほど出題されますが、最近では学校によってはこれまでになかったタイプの新傾向問題が出題されるようになってきているのも注目すべき点です。たとえば、2020年の普連土学園中学校の理科の問題では、ある地震について、3つの地点で記録したP波とS並みのグラフとリード文を読んだ後、解答用紙にコンパスを使って震央を求める、という問題が出題されました。また、栄東中学校では、地球内部の地震の波の伝わり方に関する問題が出題されました。
しかし、新傾向問題と言っても、どちらも細かい知識を聞かれているわけではなく、リード文と条件、図やグラフなどのデータを正確に読み解き、ていねいに1問1問解いていくことで十分正解できる問題でした。新傾向問題は今後もさまざまな形で、いろいろな学校で出題されていくと考えられますが、どれも必要な基礎は変わりません。出題されている材料をていねいに読み解き、設問に答えるという姿勢を焦らず保つことが正解するためのカギです。
地震の発生の仕組みを理解することも重要
地震については、以下のような発生の仕組みも理解しておくことが求められます。
- 地震には海溝型と直下型があること
- 日本列島付近では4枚のプレートが相接していること
- 海溝型地震はプレートが跳ね上がるときに起きて、津波が起こることが多いこと
- 直下型地震は活断層で発生すること。
- 断層の両側の地層の様子から、力がどのように加わったか(押す・引く)がわかること
プレートが潜り込んでいるところは火山ができやすいところでもあるので、プレートの動き自体が火山活動にも関連しているということは知っておきましょう。プレートを題材に火山の問題、地震の問題、また地震と火山が融合した問題が出題されることもありますので注意したいところです。
地震や火山の問題に強くなるためには、日常的なニュースにも興味を持ち、親子で「なぜこういう災害が起こるのか」「地震と言えば原因はこう」「P波とS波ってどう違うんだっけ」などというように、知識に絡めて質問し合い、確認することも大切です。
西之島では火山の噴火活動が続いているのでニュースになっていますし、緊急地震警報が鳴り響いた日もありましたね。緊急地震速報の仕組みを考えることは、地震に対してお子さんの興味や科学的好奇心を高める機会でもあります。また、災害にはハザードマップがつきものですが、理科の時事問題ではこのハザードマップは頻出ですので、住んでいる地域のハザードマップを一緒に調べるなどして、親子で確認する機会をぜひ作ると良いでしょう。
時事問題でよく扱われるテーマを整理
最近の入試の理科の問題では、時事問題が出題されることが増えています。時事問題で1つの大問を作る学校もあるほどです。理科が私たちの日常生活に密接にかかわっていることを考えても、このような時事問題が入試で出題される傾向は今後も続いていくと考えられます。ここでは、理科で時事問題がどのような扱われ方をするのか、どのようなテーマがよく取り上げられるのか、この数年の出題傾向も含めてご紹介します。
地震、天体、気象は時事問題に絡めた出題が多い
時事問題で欠かせないのが天体の問題です。毎年のように天体ショーがあり、また、宇宙探査などのニュースも多いので、問題が作りやすいのです。2019年は探査機の「はやぶさ2」が小惑星の「リュウグウ」へのタッチダウンに成功したニュースを取り上げた学校が多く見られました。
時事問題の攻略法は何よりも、普段からニュースなどに興味を持ち、今どのようなことが話題になっているのかに常にアンテナを張ることです。子ども新聞などを読む習慣をつけても良いでしょう。
2020年は、部分日食、火星と木星の接近、火星の接近などが観測される年であり、また、オリオン座のベテルギウスが大幅に光の明るさを落としている、つまり減光していることが話題となりました。そういう話題が、時事問題として2021年度に出題される可能性は十分あります。
また、2019年はアポロ11号の月面着陸からちょうど50年だったため、周年問題(あるできごとから区切りの良い年にその話題を出題する問題)として「月」に関する問題も非常に多く出題されました。地球から月を見たときの満ち欠けや日食に関する問題は定番問題ですが、視点を変えて、月から地球や太陽を観察し、そのようすを答えさせるという出題をした学校もありました。これは最近の天体の問題の大きな傾向でもあります。
従来、天体の問題と言えば、地球から宇宙を見て、月や惑星の動きを答えさせる、という問題が定番問題となっていました。ところが、最近では、地球を起点とする場合に限らず、宇宙から観測した場合どうなるか、という問題が増えています。
たとえば、火星から北極星や星座を観測した場合の星の動きを答えさせるなど、地球以外の天体を起点として星を観測するという設定の問題が非常に増えています。また、同じように宇宙ステーションが話題になっていますが、地球から宇宙ステーションを見るのではなく、宇宙ステーションから見た地球、宇宙についての出題も増えています。
こうした新傾向の問題を解くためには、まずは地球を起点にして宇宙を見るとどうなるのか、星の動きなどをしっかり正確に理解しましょう。そのうえで、ほかの天体上から見た場合どうなるか、その動きを応用するというステップを踏むっことが大切です。
気象は実は苦手な受験生が多い
気象の問題も、時事問題がよく出題される単元です。気象は身近な現象で、目に見えるものも多いのですが、苦手とする受験生は非常に多いです。それは、出てきた知識を理解せずに丸暗記しているからです。現象には必ず原因と原理原則があります。そこを外してしまっては、いくら知っている現象であっても形を変えられたら答えられなくなってしまいます。
たとえば、2020年度の入試の理科では、「露点」に関する問題を取り上げた学校が目立ちました。露点とは何かというと、空気中の水蒸気が冷やされて、水滴になるときの温度のことです。空気中に含むことができる最大の水蒸気量を飽和水蒸気と言いますが、これは温度が高いほど高くなります。
そこで、温度ごとの飽和水蒸気量を示した表や、湿度を求める公式を問題文に入れ込み、湿度や温度を計算させる、という問題が頻出でした。また、それにとどまらず、露点から雲の発生に発展させるような問題や、さらにそこからフェーン現象に問題を発展させ、気象に関する多様な視点から問題を作問している学校も見られました。
気象については、ほかにも「台風」の問題が切っても切れません。日本は毎年多くの台風にみまわれますよね。そして、その規模も年々大きく、災害規模も大きくなってきているのをニュースで見た人も多いのではないでしょうか。
入試問題では、台風を上空から見たときの地上付近の風向きについて良く出題されます。どのように風が吹き込むか理解できていますか?台風を上空から見ると、地上付近では反時計回りに強い風が吹き込みます。また、台風の進行方向の東側と西側では、どちらが風が強いのか、という問題は以前から定番の問題だと言えるでしょう。こうした定番問題をしっかり身につけ、その上で応用的な問題までしっかり押さえておいた方が良いでしょう。
地震に関しても、当然のことながら時事問題は多く出題されます。実際に起きた地震を題材に、地震計のP波とS波の波形のグラフを読み解かせ、波の速度や震源などを考えさせるという問題などが出題されています。2020年度の普連土学園の問題については先ほど触れましたが、震源をコンパスを使って作図して求める、という新傾向問題も出題されています。
地震は日本では頻繁に起こっています。いつ私たちの近くで地震が起こるかは誰にもわかりません。そうした危機意識を持ちつつも、地震の仕組みをしっかり正確に理解し、場合によって変動する波形などについてもその場で考えられるように準備しておきましょう。地震や災害については時事問題を絡めた形での出題がしやすいところなので、今後もこうした災害に関して時事問題という形の問題も含めて出題する学校は増えていくと考えられます。
環境問題に絡めた出題や論理的思考を求める新傾向問題も
生物分野も、ほかの分野と絡めたり、環境問題と関連させたりして時事問題としての出題が多く見られるようになっています。小学校の教科書でも取り上げられるようなアサガオやアブラナといった身近な植物のつくりや光合成などの植物の働きについては頻出です。また、動物については昆虫のからだのつくりや育ち方などの基礎知識を問う問題が多く出題されています。
応用問題ばかりに目が行ってしまい、基礎基本をおろそかにしていないか確認するためにも、こうした基礎基本問題も多く聞かれるのがこの分野の特徴です。毎年のように多くの学校で出題されているので、小学校の教科書の内容も隅々までしっかり理解しておくことが大切です。中には実験結果についての細かい説明が入試問題で出題される筑波大学附属駒場中学校などの例もあるので、おろそかにするべきではありません。
2020年度入試の特徴を分析
2020年度入試の理科で一番大きな特徴だったと考えられるのが、環境問題に絡めた出題が非常に多く見られたことです。たとえば、プラスチックごみなどの環境問題に関する時事問題をひとつまるまる大問として出題する学校もありました。また、農薬に使われる化学物質(DDT)が、食物連鎖の過程で草食動物や肉食動物の体内に蓄積していくデータを読み取らせる問題も出題されました。DDTに関する細かい知識はもちろん必要ありません。食物連鎖についてしっかり理解できているかが本丸でした。
こうした新傾向の問題として、今後考えられるのは、動物や植物についての基本知識をたずねる問題に加え、食物連鎖そのものについて問題文を読ませて考えさせ、環境問題につなげて解決法を記述させる、といった問題構成などです。こうした新傾向勝単元横断的な問題は今後ますます増えていくでしょう。学校によっては、環境問題を具体的に挙げて、どのような対策をとればいいのか意見と理由を記述問題という形で出題することも増えるでしょう。麻布中学校では、以前からこのような問題が出題されてきました。時代がようやく追いついたと言えるでしょう。
論理的思考を測る問題も
中学入試の理科で中学校側が最も見たいのは受験生の「論理的思考力」「科学的思考力」です。そういった能力を測るために、見た目が新しい新傾向問題を出題する学校も少なくありません。たとえば、DNAや血液型の遺伝をテーマにした問題の出題も注目テーマのひとつです。DNAや遺伝については中学校以降に詳しく勉強しますので、細かい知識は要求されていません。初見の問題として、リード文でDNAや血液型の遺伝の法則について説明し、図などを用いてデータを読み取らせ、さまざまな形の設問に答えさせる、という形式です。
DNAや血液型の遺伝については小学校では学ばないので、細かい内容を知らないから解けないと考えるのはちょっと早計です。このテーマはあくまでも入試の題材であり、よくリード文を読めば説明がされていて、わからないというものではありません。詳しく説明が書かれているリード文をいかに正確に読み解くか、データの読み取りを含めて読解力が要求されていると言えるでしょう。
内容を整理できれば、受験勉強で得てきた知識を使って問題を解くことができます。こうした問題は見た目で敬遠する受験生も多いので、差がつく問題ですから、解ければ大きなアドバンテージになります。差がつく問題こそ合否を分けるので、怖がらずに1問ずつていねいに解いていく習慣をつけましょう。
どうしても理科は暗記、と思ってしまいがちな教科かもしれませんが、単純に知識だけを問うような問題は減ってきている傾向にあります。つまり、知識さえ直前に詰め込めば何とかなる、そんな時代ではもうないことに注意しましょう。必要なのはリード文や条件、データの正確な読み取りと、設問の設定を正確につかみ、1問ずつていねいに解いていくことです。これは時事問題でなくても同じです。身につけてきた原理原則や考え方を、現場でいかに引き出せるかが勝負の分かれ目になるでしょう。
ノーベル賞や最近のニュースも出題
ノーベル賞は、理科の時事問題でよく出題されます。受賞者の名前や受賞部門、研究テーマなどを答えさせる問題が一般的です。たとえば、2020年度の入試では、2019年に「リチウムイオン電池」の研究でノーベル化学賞を受賞した吉野彰さんに関する出題が多く見られました。ノーベル賞と言うと学者の専売特許のように思えますが、吉野さんはサラリーマン研究者です。そして発明されたリチウムイオン電池は私たちの生活のありとあらゆるところで使われていますよね。そうしたニュースにも目を向けておきましょう。
また、吉野彰さんは、受賞内容だけでなく、吉野さん本人が少年時代に科学に興味を持ったきっかけになった本であるファラデーの「ロウソクの科学」でも有名になりました。そこで、入試問題でも「ロウソクの科学」の内容を取り上げ、その内容に絡めて「ものの燃焼」についての問題を出題した学校もありました。このように、大きなニュースは形を変えて理科の問題として出題されます。
ほかにも、2020年度の大きな時事問題としては、「新型コロナウィルス」が挙げられますよね。この問題については、まだ解明できていないことやワクチンもいきわたってちないこと、新種が発見されるなど日々ニュースが変わっていくのでどのような形で扱われるかは現時点ではわかりません。ただし、ウィルスの画像などはテレビでもよく見ますし、免疫というのもキーワードになっています。また、PCR検査ということばもよく話題になっていますね。そうした画像や免疫、PCR検査のかんたんな仕組みなどはニュースなどを利用して確認しておきましょう。
時事問題に関連する単元は必ず整理を
時事問題対策の勉強としては、大手塾などでは主に社会の重大ニュースとして秋にテキストを発売します。その年に起こったさまざまなできごとをまとめたテキストです。そうしたテキストを使いながら、その内容を確認する形で時事問題の授業は行われます。ご家庭では、授業で扱われなかった部分を学習していきます。
時事問題のテキストや問題集ではかなり細かいことまで書かれているため、これを全部今から覚えるのはとても無理、と考える方も多いのですが、そこまでは必要ありません。基本的に時事問題は、日常的なニュースにアンテナを張り、そこで出てきたできごとや人物名、地名などの基礎知識を身につけているかどうかを確認するために出題されます。ですから、代表的なできごとの概要をしっかりつかんでおけば十分入試に対応できます。
大切なことは、時事問題のテキストや問題集の内容を丸暗記することではありません。塾で時事問題を取り扱うのは冬休みであることが多く、時間制限もあるのであとは自分で、ということも少なくありません。しかし、テキストの内容を薄く浅く覚えることが時事問題対策の目的ではないことに注意が必要です。
世の中で毎日どのようなできごとが起こっているのかについて、普段から関心を持つことこそが最大の時事問題対策です。テレビのニュースで解説を聞きながら家族で会話して意見を言い合ってみたり、ニュースで話題になっている場所を地図帳で確認するなど、五感を使って自分をその場に置いてみることが大切です。テレビ以外にも新聞や、話題になっているニュースについての本を少し読んでみるなど、ひとつのできごとを多角的な視点から考えられる姿勢を身につけておくことが大切です。中学受験でももちろんですが、そういった姿勢は入学後も非常に求められます。
入試問題を作る中学校側が時事問題を出題する意図は、普段から身の回りで起こっているできごとについて、理科的な視点からみて、考察してほしい、という点にあります。入試の理科では、時事問題は大問の導入として使われることが多く、時事問題に関連する理科の単元の理解度をはかるひとつの尺度としてとらえられていることがほとんどです。
たとえば、地震に関する問題であれば、地震が起こった場所や緊急地震速報などのキーワードを答えさせてから、地震計のグラフを示してP波とS波の波形を読み取り、震源までの距離を考えさせる問題がよく出題されます。気象であれば、台風の発生の仕組みや台風の進行方向、風の向きについての理解、さらには降水量や風速のグラフなどを読み解くことが必要です。
ですが、これらは普段の学習でやってきたことです。知っている知識を総動員して、初見の問題を解くのが中学入試ですから、時事問題の知識については関連した理科の単元の整理の中で押さえておきましょう。
中学入試の理科で求められるのは総合力
2020年度の中学入試の理科の問題をまとめてみると、中学校側の「テキストの知識だけでなく、身の回りのできごとや科学的事象に興味を持って入学してもらいたい」というメッセージが強く打ち出されていたと言えるでしょう。中学校側は、入学してくる生徒に理科的好奇心、理科的視点を求めています。それは、身の回りの事象に興味を持ち、疑問を持ったことは自分で徹底的に掘り下げて調べ、理科的視点からまとめる、といった力です。
また、同時に理科的な読解力も要求されています。最近では、入試の理科の問題のリード文や、設問そのものの字数が非常に多くなっている傾向にあります。単発的な知識を機械的に吐き出す入試問題ではなく、「読んで考えさせる」出題にシフトしていると言えるでしょう。これは理科だけでなく、算数や国語、社会でも同じです。なぜかと言うと、読解力が合否の差を分けるからです。入試問題は学校から受験生へのメッセージです。それをしっかりと受け止め、解答用紙に表現することによって、学校と受験生は対話しているのです。そのコミュニケーションが取れないようでは、入学後が危ぶまれるため、学校側はあの手この手でアドミッションポリシーを入試問題の中に入れているのです。
理科の場合、リード文に原因や実験内容、プロセス、結果まですべて説明されているケースが多いです。それをしっかり活用しきって問題を解ききる、そういう姿勢を中学校側が求めていることを忘れないでください。そのため、与えられている条件に素直に向き合うことも大切です。急ぐあまり条件と違う思い込みの知識で解こうとすると芋づる式に失点します。素直に問題に向かえる姿勢、それも中学入試には必要なのです。
最近の中学入試の理科は、1問1問の大問が「総合問題」となっていることも少なくありません。ですから、受験生に求められている力も、これらの科学的思考力や科学的読解力などの理科的総合力なのです。たとえば天体なら、月、太陽、星といったそれぞれの単元の問題は解けても、すべてが組み合わさった問題を解けるでしょうか?そうした総合的な問題が解けるかどうかが結局のところ合否を分けるのです。
こうした理科的総合力を身につけるためには、学んだ内容の関連性を考え、結び付けてみることや、これまでの入試過去問(志望校以外を含む)で総合問題の良問をピックアップして解き、知識の整理とともに読解力、思考力を鍛えていくことが必要です。問題のピックアップは塾の先生に頼んでも良いでしょう。手を広げ過ぎるのではなく、傾向をつかみ、自分の力で解けるかどうか持っている総合力を発揮することが大切です。ぜひやってみてください。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。