中学受験といえば、4教科入試や2教科入試、あるいはどちらかを選択できる入試がこれまで多数派を占めてきました。今後も、このような入試が中心であることは当分変更はないと考えられます。中学校に入るにあたって、各教科の基礎をしっかり身に着けて、中学校から始まる新しい授業についていくだけの学力があることが、やはり望ましいからです。
一方で、近年は、午後入試の広まりや、これから始まる大学入試改革を意識して、このような従来型の入試とは形を変えた入試が広まっています。
たとえば、公立中高一貫校が開校してかなりたちましたが、「適性検査」という形で入試を行い、科目横断型の思考力を試したり、問題文の中に出てくる図表やデータの読み取りとその分析を行わせ、さらには自分なりの解答プロセスを書かせる記述問題まで幅広い能力を見る入試が与えたインパクトは非常に大きいものでした。
今では、公立中高一貫校だけに限らず、私立中学校の入試問題でも、このような思考力・判断力・表現力を問うようなものが非常に増えてきました。出題される問題文や設問は長文化し、さまざまなデータを正確に読み取ることができるかどうか、自分なりの理由付けを記述できるかどうかという点が重視されるようになってきています。2020年の大学入試改革に向けて、さらにそのような入試は公立中高一貫校以外に限らず、より多くの私立中学校の入試に取り入れられていくと考えられます。
「思考力」は、いまや中学入試の最重要キーワードの一つです。塾でも、「思考力養成講座」なるものが非常に増えてきています。ですが、中学入試で求められる「思考力」とはどのようなものなのでしょうか。実は、ただその場で思ったことを書けばいい、と誤って解釈している受験生やご家庭も少なくありません。
入試で求められる「思考力」とは、多くは問題で与えられた「お題」「条件」を分析して、さまざまな視点から問題を考え、自分がなぜそのように考えたのかという思考のプロセスを記述して表現し、自分なりの解答を導き出すというものが主流です。「思考力」ということばはマジックワードですが、それに惑わされないようにしましょう。
このような、思考力を重視した入試を受験して、中学校に入学した生徒さんたちは、中学校・高等学校6年間、大学附属校であればさらに連携して、「アクティブ・ラーニング」に重点を置いた授業を受けることになります。塾での受験勉強は一方向の授業でしたが、アクティブ・ラーニングは双方向授業、能動的授業です。
各教科において、また、教科を横断して、思考力・プレゼンテーション能力・表現力をはじめ、コミュニケーション能力も磨いていくというカリキュラムをもとに学習を進めていきます。このようなアクティブ・ラーニングを実施するため、近年、多くの中学校で、中学校・高等学校6年間の授業カリキュラムを一新し、その学校ならではの特徴を前面に押し出して生徒を募集するようになってきました。
当然のことながら、入試もそのようなカリキュラムがスムーズに進められることを考えて作問され、実施されているので、中学入試には、入学してからの学校の生徒に対する教育方針がより反映されてきているということがわかります。
このように、さまざまな学校が、特徴ある入試を次々と始めている近年の中学入試ですが、中でも特に近年目を引くようになっているのは、入試科目に英語を取り入れる学校が非常に増えてきている、という傾向です。
帰国生入試ではこれまでも英語が入試科目に入っていることはありましたが、帰国生ではない生徒を選抜するためにおこなわれる一般入試の科目に英語が取り入れられるようになってきているということは大きな変化といえるでしょう。
最近では、慶應義塾湘南藤沢中等部が2019年度の入試から英語の試験を導入すると発表したことが注目を集めています。
英語を入試に取り入れる学校はこれまでにもありましたが、「算数重視」の入試を以前からおこなっている学校があること、そして2018年度、2019年度に一気にその数が増えることをご存知でしょうか。中には、算数の配点をほかの教科より高くするものもありますが、今回注目したいのは、「算数1科目の入試」が増加してきているということです。
じゃあ、やはり算数だけひたすら勉強すればいいのね、とお考えになるかもしれませんが、単純に考えるのは危険です。受験する学校の他の方式の入試や、併願校の入試対策のことも十分に考慮して準備する必要がありますし、その学校ではなぜ算数1科目入試が取り入れられているのかを意識して対策を進めていく必要があります。
今回は、算数1科目入試の増加傾向と、意識しておいていただきたいことについてまとめていきたいと思います。
Contents
増加傾向にある「算数1科目入試」
2018年度の中学入試で目立った特徴の一つとして、「算数1科目入試が増えている」ことが挙げられます。
これまでは、中学校側も、中学に入ってからの授業のことも考慮して、4教科の入試がやはり中心でした。一方で、算数または国語の中から1科目を選択するという入試や、算数のみ配点を高くする入試を設置している学校も見られるようになってきていました。
たとえば、攻玉社中学校の算数または国語1科目の入試や、世田谷学園中学校では算数の配点が120点と、他の科目より高く設定されていたという流れはありました。
2018年度は、算数のみの1科目入試を実施する学校が増加したという点で大きな入試変更があった年といえるでしょう。
たとえば、品川女子学院や大妻中野中学校で、算数1科目入試が新設されました。完全な算数1科目入試まではいかなくとも、晃華学園中学校が午後入試で算数・国語の2科目入試を取り入れるなど、これまで午後入試を行ってこなかった中学校が、科目数を減らして午後入試をおこなうということも増えてきています。
2018年度の入試で、算数を重視した入試をおこなった主要中学校としては、以下のような学校がありました。
男子校
- 攻玉社中学校(特選)2月5日 算数または国語から1教科選択
- 芝浦工業大学中学校 全日程で国語・算数・理科の3教科入試を実施
- 高輪中学校(算数午後入試)2月2日午後 算数1教科入試
- 鎌倉学園中学校 2月1日午後 算数選抜入試を実施
- 立教池袋中学校(第2回入試)国語・算数の2教科プラス自己アピール面接
女子校
- 品川女子学院中学校 2月1日午後 算数1教科入試を新設
- 大妻中野中学校 2月3日 算数1教科入試を新設
- 東京女子学園中学校(第2回)2月2日 国語または算数から1教科選択
男女共学・別学校
- 国学院久我山中学校(ST選抜)2月1日午後、3日午後 算数・国語の2教科入試
- 帝京八王子中学校(第3回)2月3日午後 国語・算数から1教科選択、(第4回)2月5日、4教科の中から1教科選択
- 東京農大第一中学校(第2回)2月2日午後 算数・理科の2教科入試を実施
- 東京電機大学中学校(第4回)2月4日午後 4教科から2教科選択
- 日本工業大学駒場中学校(第2回)2月2日 国算、国社、国理、算社、算理のいずれか2教科入試を選択
- 明星中学校(ASMGSクラス)2月1日午後、2日午後 算数1教科入試
- 目白研心中学校(第2回、第4回)2月1日午後、2日午後 国算、算理、国社、国英(1日午後のみ)のいずれか2教科入試を選択
なぜ今、算数入試が増加してきているのか
近年、アメリカの教育では、「STEM」という考え方が進められてきています。「STEM」とは、「Science」「Technology」「Engineering」「Mathematics」の頭文字をあわせたことばです。科学、技術、数学を重視するということをさすのだということはなんとなくおわかりになるでしょう。
この「STEM」の教育プログラムがアメリカで推進されているのには理由があります。ニュースなどで「AI(人工知能)」ということばをよく見聞きすると思いますが、AIの技術は着実な進化をとげてきており、急速に広まりつつあります。
2045年ごろには、コンピューターの人工知能(AI)は、さらに今より飛躍的に進化するであろうと考えられており、私たちがいま生きている世界や生活を取り巻く環境、ひいては文明すら変えるであろうと言われるほどです。今のお子さんたちは、そのような変化の中で生き抜いていく必要があります。
そのような将来の、まだ見ぬ世界の中で活躍していける人材に対し、科学技術や工学、数学などの分野に優れた能力を発揮できる力をはぐくむこと、それがこの「STEM」教育の目的と言ってもよいでしょう。
もちろん、ただ理系分野だけに秀でた人だけ育てるという意図ではないでしょうが、科学技術や工学、数学にたけるということは、論理性を持ってものごとに対峙することができ、問題を解決するためのプロセスを論理的に考え、結論を下すという行動をとることができるということでもあります。そのため、こういった理系分野に優れた才能を持つ人材を育てようというのがこの教育方針の柱です。
日本でも、算数1科目入試を導入する中学校が増えて来ていますが、根底にある考え方として、いま述べたような能力を磨くことができる生徒に入学してほしいという点は否定できません。理数科目、特に最も基礎となる算数の素養があり、能力が高い生徒に入学してほしい、そのような能力を中学受験ではかるために、算数1科目入試が広がってきていると言えるでしょう。
2018年度の入試で算数1科目入試を導入した品川女子学院中学校や大妻中野中学校のような女子校でも、もちろん将来の選択肢は生徒自身が決めるものですが、理系の道を選んでほしい、そのような生徒を増やしたいという動きが見られ始めたのも、近年の算数1科目入試の増加の大きな要因になっていると考えられ、今後さらに慎重に検討しながら、さまざまな学校で導入されていく可能性は十分あります。
たとえば、大妻中野中学校では、算数1科目入試を導入する意図として、以下のようなことを発表しています。
- 近未来社会では、理数教育に高い関心を持ち、深く学習することが強く求められている
- 多くの仕事が人間を必要としなくなる(AIの発達の問題など)と言われているが、その社会的変化の速さはこれまでに考えられてきたよりも想像以上に速くなっている
- 入学する生徒には、将来そのような社会でリーダーシップをとり、活躍してほしい
大妻中野中学校では、近年入試改革や教育内容の改革に取り組んできていますが、特に重視しているのがグローバル教育を充実させることと、理数教育を充実させることです。そして、算数1科目入試を導入することが、学校改革を断行する意思表示と学校側は考えています。
そのため、算数1科目入試によって、学校が目指す理数教育を充実させることができるよう、素養を持った生徒に多く入学してもらいたい、という考え方を前面に押し出したともいえるでしょう。
また、算数1科目入試の合格者だけでなく、希望する新入生を対象として、「プログラミング講座」を放課後に開講するという取り組みも始まっているようです。
今は算数入試の第2フェーズのとき
算数1科目入試は、これまでもさまざまな学校で導入されてきましたが、思うように受験生が集まらなかったり、入学後に算数以外の学力向上という課題に直面する学校も多かったことにより、数年で廃止する学校も少なくありませんでした。
中学受験の中心は算数、だから算数ができる生徒をとれば生徒全体の成績も上昇する、というほど、簡単に生徒の学力は向上するものではありません。また、算数入試があるからと、他の科目の勉強を全くせずに中学校に進んだ場合、これまでの算数の入試だけでは、生徒の持つ多様な能力をはかることが難しく、かえってほかの教科の学習に時間がとられ、学校側が実行しようとした理数教育が絵に描いた餅となってしまうこともありました。算数入試を何のために使うのか、学校側の姿勢も固まっていなかったということも一因だったと言えるでしょう。
今後も算数1科目入試を導入する予定の中学校は増加傾向にありますが、今後算数1科目入試を導入していく中学校は、算数1科目入試を導入する際に、従来とは異なる「STEM」という教育理論を念頭に置いています。ですから、導入に際しては、入学後の教育をどうするか、学校側も慎重に考え、カリキュラムを組んで生徒を迎え入れる準備をすることが必須になるでしょう。
つまり、従来の入試が算数1科目入試の第1フェーズだとしたら、今後導入されていく算数1科目入試は、第2フェーズに入ってきたと言えるでしょう。実際に算数1科目入試の増加によって、導入した学校が実際に入学した生徒にどのような指導をおこない、次世代を担う人材を育成していくのかが非常に注目されるところです。
算数1科目入試で出題される問題は、全体的に非常に難くなる傾向にあります。算数が得意な生徒さんが受験してくるわけですから、差をつけるためには難度を上げる必要もありますし、算数1科目入試の本来の目的から考えると、論理的な思考力やスピード、切り替える力も要求される入試問題になるであろうことは予想がつきます。
実際に、これまで実施されてきた算数1科目入試は、4科目受験の場合の偏差値より、2~3ポイント程度は高いことがほとんどです。特に難関校でおこなわれる算数1科目入試は、これだけ偏差値が異なるということからも、相当難しい入試になると考えられます。
算数1科目入試は、算数が得意なお子さんにとっては、志望校選びの選択肢が増えるというメリットもありますが、「算数1科目で受けられるから便利」と十分に対策をせずに気軽に受験すると、かえって問題のハードルの高さに苦戦し、得意なはずの算数で足をすくわれるという可能性があるということには注意が必要です。
学校によっては、コース別入試をおこなっているところも多いですが、おおむね上位コースの算数と同じだったり、さらに難度を上げるケースもあります。サンプル問題を学校のホームページなどで公開したり、学校説明会で配布している場合もありますし、入試問題に対する解説会を実施する学校もありますから、そういった機会をぜひ利用していただき、事前に十分準備をして入試に臨んでいただきたいと思います。
2019年度も算数1科目入試を導入する学校は増加傾向
2018年度にも算数1科目入試を導入した学校がありましたが、2019年度はさらに大きく算数1科目入試に舵をとる学校が増えるとみられており、すでにホームページなどで公表している学校も少なくありません。
たとえば、算数入試を以前から取り入れていた攻玉社中学校は、従来の算数1科目入試または国語1科目入試を、算数1科目入試のみにしぼるとしています。
また、従来から算数重視の姿勢で入試をおこなってきた世田谷学園中学校は、2月1日の午後に、算数特選入試を新設することが発表されています。
これらの学校以外にも、多くの学校で算数1科目入試が導入される予定となっています。現在のところ公表されている主な学校の情報は以下の通りです。
- 栄東中学校 1月18日に実施する東大Ⅱ入試を、4教科入試か算数1科目入試(算数①・算数②)のどちらかを選択できるようになる
- 開智日本橋学園中学校 2月1日午後の特待生入試を、従来の4教科入試から算数1科目入試で受験できるようになる
- 三田国際学園中学校 2月1日午後 本科30名を定員に算数1科目入試を導入。また、メディカルサイエンステクノロジークラスを新設し、2月3日午後に算数・理科入試を実施する
- 日出中学校 日本大学の準付属学校となり、学校名が「目黒日本大学中学校」に変更され、2月1日午後と2月2日午前に算数1科目入試を導入する
- 巣鴨中学校 2月1日午後に算数1科目入試を新設する(定員20名)
- 普連土学園中学校 2月1日午後に算数1科目入試(定員20名)を新設し、2月1日午前の入試の定員を70名から50名に変更する。算数1科目入試は50分で50問出題され、計算と一行問題を中心に出題予定
- 攻玉社中学校 2月5日の特別選抜のうち、国語入試を廃止し、算数1科目入試のみとする
- 山脇学園中学校 2月1日午後入試を新設し、算数または国語から1科目を選択する入試となる
- 世田谷学園中学校 2月1日午後入試に算数1科目入試を新設。午後の集合時間を3回に分けて実施する予定
- 桐蔭学園 中学校と中等教育学校を中等教育学校に一本化し、2月3日に算数選抜入試を新設。算数選抜入試は記述式で、試験時間は70分とされている
詳細については、各学校のホームページで確認するようにしてください。
大きな特徴としては、これまで新しい入試方式を導入してこなかった、伝統校も算数1科目入試を新設するということが挙げられます。午後入試の広まりと共に、集合時間を時間差でずらして受けられるようにする学校もあるなど、学校もあの手この手で算数1科目入試を採り入れつつあります。
今後の中学校の入試動向は、実際の学校での教育内容、生徒を成長させる、伸ばしてくれる学校なのかということによって変わってくると考えられます。しかし、算数1科目入試については、2020年の大学入試改革、将来の教育内容の変化をふまえて第2フェーズに一歩踏み出しています。「中身のある」「効果のある」入試になるかどうか、学校の説明などもよく聞いたうえで、しっかり見極めたうえで受験を検討することをオススメします。
算数1科目入試の意味とこれから
これまでも、中学受験と言えばまず受験算数をいかに攻略するかということが大きなポイントであったことは間違いありません。ですから、塾の授業も算数が中心、家庭学習で最も時間をかけるのも算数、一番成績に敏感になるのも算数、という受験勉強がこれまでのスタンダードでした。
ですが、最近は、改めて受験における算数に対する注目が集まっています。中学校側からすれば、入試で算数ができる生徒さんを多く入学させられれば、進学実績がよくなるという意図があるというのはたしかでしょう。
算数ができるということは、試行錯誤しながら、論理的に筋道を立てて、プロセスをふみ、解答する、つまり問題を解決するための思考力があるということでもあります。これまでも中学入試で算数が重視されてきたのは、やはりこのような論理的思考力はなかなか教えてもできるようにならない、養成の難しい力であり、できるならばそうした力が備わった生徒さんをできるだけたくさん入学させ、切磋琢磨させたいというのは、進学実績を期待される学校としては外すことのできない考え方であることは当然です。
ですが、論理的思考力は、単なる典型的な算数の問題でははかることができません。問題文の内容をよく読み、正確に条件を把握し、設問の意図を読み取り、解く手順を組み立て、最終的には計算に持ち込んで、正解に達するという何段階ものプロセスを経るような問題でなければ、思考力、読解力、表現力、正確な計算力などの力をはかることはできません。そういった意味で、今後の算数1科目入試は紆余曲折を経ながら、学校の考える論理的思考力とそれを伸ばすための教育に対する考え方により、大きく変わってくると考えられます。
また、将来理系に進む場合は算数及び数学は必須ですが、文系であっても算数や数学の素養は必須になってくるでしょう。国公立大学を目指す場合は文系であっても数学は現在も必修ですし、大学入試改革によって教科としてどうなるかはともかくとして、数学に代表される論理的思考力は今後理系、文系にかかわらず必ず必要になることは間違いない流れだと言えます。
このような理系、文系という考え方にとらわれず、これからの時代は、論理的思考力を身に着けることは必須となります。だからこそ、一番親和性の高い数学的思考力をもとにして、論理的にさまざまなものごとを判断できる、答えのない問題に対してくらいつき、段階を踏んで解決するまであきらめない力を養成し、それを社会に出ても活用できるようになることを目指すというのが現代の世界的な潮流といえます。
そのような世界的潮流から取り残されないように、大学入試改革がおこなわれるわけですが、そこで求められる学力の要素を身に着けるということは、今後の世界的スタンダードに対して遅れをとることなく、さらにはそれに対応できるように、自由な進路の選択を自分自身でよく考え、そのための手段としてそういった能力が必要だということを自覚し、学習を進めていくという目的を実現するということにもつながります。
これは、進路選択においていわゆる「文系」を選ぶ場合であっても決して無関係なことではありません。文系を選んだとしても必要とされるのは、数学的な論理的思考力です。そういった能力が、中学高校だけでなく、その先の大学生活でも、さらには社会に出た際にも、そして世の中全体において、数学的な論理的思考力が必要とされる場面が増えていくということです。
今後の大学入試改革では、文系の科目にも数学的な要素の導入を目指していくと考えられます。そのことを見越したうえで、数学的な論理的思考力の基礎となる算数を重視し、入試科目や指導の中でもより重視し、結果を出したい考えが、さかのぼって中学入試にも当てはまるというわけです。
まとめ
近年、算数1科目入試が増加傾向にあるのには、世界的な教育の流れが背景にあるということがお分かりいただけましたでしょうか。
たんに算数ができればそれで終わり、ではありません。大切なのは、算数を解くうえで欠かせない論理性、思考力といったもっと本質な部分です。それを理解したうえで受験算数の学習をしないと、表面的な解法の暗記に終わってしまい、また一から論理的思考力を時間をかけて要請していかなければなりません。
算数1科目入試では、「我こそは算数が得意!」という生徒さんが集まりますから、レベルの高い争いになることは間違いありません。ただ、それは、点数云々ではなく、算数の本質をつかんでいるかどうかというレベルの高さを意識しなければならないということです。
今後も増加すると考えられる算数1科目入試ですが、なぜ算数1科目の結果で合否を決める入試がおこなわれるのか、その意味をよく意識していただきたいと思います。単に1科目だから、算数が得意だから、勉強量が少なくて済むから、という安易な考えで合格できるほど甘い入試ではありません。
入試科目や形式の多様化はこれからももっと進んでいくことは間違いないですが、ここにきて急激に増えてきた算数1科目入試に込められた意味、学校側の意図、そういったところをしっかりリサーチし、検討していただき、志望校選択の幅を広げることができそうかどうかよく考えたうえで、受験するかどうかを決めることをオススメします。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。