丸底フラスコでの水の加熱〜温度の違いで水の中に見られる現象や、大きさの異なる泡の正体をつかもう~

 状態変化をテーマにした問題は様々にありますが,私たちの身近なものとして水の状態変化に関する問題は多くあります。その中でも今回は特に丸底フラスコに入れた水を加熱していく実験についての問題を取り上げます。

この実験では状態変化はもちろんですが,水が蒸発するまでの間に様々な現象が観測されます。実験では必ずしも見たい現象だけが起こるわけではありません。時には実験装置や周囲の環境に目を向けてみることも大切です。

まずは重要なポイントを確認し,最後には学んだ知識を活かして実際の入試問題に挑戦してみましょう。

水を加熱したときに見られる現象

 さて、次のような実験装置を用意し、水を加熱していく実験を考えましょう。

(新演習理科小4上より引用)

 まずはこの実験の過程で観測される現象を列挙してみましょう。これらの原理については次の節で説明します。

 

(新演習理科小4上より引用)

改めて各現象を見られる順に整理します。

  1. 丸底フラスコの外側が白くくもる。
  2. 丸底フラスコの底や壁面から小さな泡が出てくる。
  3. 水の中がゆらゆらと動いて見える。
  4. 水面や、丸底フラスコ上部に取り付けたガラス管の先から湯気が出てくる。
  5. 丸底フラスコの底や水の中から大きな泡が出てくる。

この中には状態変化が主な原因になっているものもあれば,そうでないものもあります。次の節でこれらの原因や関連した知識を丁寧に確認していきましょう。

水を加熱したときに見られる現象の原因

丸底フラスコの外側が白くくもる

 加熱を始めると、まずは丸底フラスコの周りが白くくもります。これは加熱によって丸底フラスコの外側に何かが付いていることになりますね。これはアルコールが燃えてできた水蒸気が丸底フラスコによって冷やされてできた水滴です。

 アルコールは炭素や水素,酸素でできている有機物です。これを燃焼すると二酸化炭素と水が生じます。ただ燃焼では大きな熱が発生するので生じた水はすぐに水蒸気として空気中に飛んでいきます。

 アルコールの燃料によって生じた水が丸底フラスコ内の水の温度によって冷やされると,気体である水蒸気から液体である水へと状態変化が起こり,丸底フラスコの外側に水滴として付着します。これにより加熱時に白くくもったように見えるのです。

 しばらく加熱を続けると水の温度が上昇するため,水蒸気を水への状態変化を起こすまでには冷やせなくなり,徐々にくもらなくなっていきます。

 ちなみに場合によっては加熱のためにガスバーナーが用いられますが,ガスバーナーなどの燃料であるガスも気体の有機物であるため炭素や水素、ものによっては酸素や窒素、硫黄も含んでいるため燃焼させたときに水蒸気が発生し、フラスコの外側に付着します。

丸底フラスコの底や壁面から小さな泡が出てくる

 ある程度水が加熱されてくると,40℃付近で丸底フラスコの底や壁面から小さな泡が出てくるようになります。この泡の正体は何でしょうか。これは水に溶けていた空気が出てきたものです。

 普段は見えませんが実は空気もほんの少しだけ水に溶けています。実は魚がエラ呼吸をするとき,水に溶けたこのわずかな酸素を体内に取り込んでいます。

 そして水の温度が高くなるほど水に空気が溶けられる量が次第に少なくなっていきます。つまり水が加熱されることで空気の水への溶解度が小さくなり,もともと水に溶けていた量が溶けきれなくなって,溶けきれなくなった分の空気が泡となって外に追い出されているのです。

水の中がゆらゆらと動いて見える

 さらに水を加熱していくと水の中がゆらゆらと動いて見えるようになります。これは「丸底フラスコの底部で加熱された水の体積が大きくなり,上部へ移動するとき」に起こる現象です。

 物質を加熱すると,物質を構成する粒子の熱運動が激しくなって体積が大きくなります。すると部分的に密度が変化します。

 水の密度が変化すると光の屈折率が変わります。つまり加熱されて体積が大きくなり,密度が小さくなった水が上部に上がっていく途中はフラスコ内の水の密度は場所によって様々であり,それに応じて光の屈折率も場所によって様々になります。

 場所によって光の屈折率が違うことでゆらゆらと動くように見えるのです。この現象は「シュリーレン現象」と呼ばれます。より詳しく知りたい人は調べてみましょう。

 同じ原理の現象として「かげろう」が挙げられます。砂漠などで空気がゆらゆらして見えるあれです。これも空気が強い日光の熱によって温められて空気が部分的に膨張し,場所によって光の屈折率が変化するために起こる現象です。

水面や、丸底フラスコ上部に取り付けたガラス管の先から湯気が出てくる

 水の温度が十分に上がってくると,次第に湯気が出てくるようになります。これは水面から出た高温の水蒸気がまわりの空気によって冷やされて水滴になったため見られるものです。

 ここで水滴という言い方に違和感をもった人もいるかもしれません。ここで湯気について注意しておくべき点を確認しましょう。

 湯気は「気」という漢字が使われていることや,見た目が煙っぽいことから気体と思われがちですが,湯気は水蒸気とは異なり、「液体」です。

 液体というとプールにたまっている水のようなものを想像するかもしれませんが,水滴も立派な液体ですよね。湯気はとても細かい水滴が空気中に舞っているものになります。

 分かりやすい見分け方として,「目に見えないのが水蒸気(気体)」,目に見えるものは「水滴(液体)」です。

 ここでもう一つ身近な例を取り上げてみましょう。雲です。雲は目に見えますよね。実はあれも気体ではありません。雲は液体である細かい水滴と固体である氷の細かい結晶からできています。だから白く見えているのです。

 ちなみに上で煙を例えとして挙げましたが,煙も同じ理由で完全に気体とは言えません。

 さて加熱された水から湯気が出ることの話に戻りましょう。水を加熱し続けて温度が上がってくると,沸点である100℃でなくともある程度蒸発が起こるようになってきます。

 別の記事でも述べましたが,沸点は水の「沸騰が始まる温度」であって「蒸発が始まる温度」ではありません。水の蒸発は室温だろうと起こります。温度が高ければより起こりやすくなります。

 こうして温度が上がることによって水が蒸発し,水面から出てきた高温の水蒸気は,今度は周りの空気によって冷やされます。冷やされることによって再び状態変化が起こり液体へ戻ります。

 ただし大きな塊としての水ではなく,細かい水滴の姿として液体になります。これが湯気として見えるのです。

丸底フラスコの底や水の中から大きな泡が出てくる

 水が加熱されて100℃付近になってくると次第に丸底フラスコの底や水の中から今度は大きな泡が出てくるようになってきます。

 これは②で述べたような「水に溶けていた空気」ではありません。この大きな泡の正体は水の中で状態変化を起こして気体となった「水蒸気」です。つまり物質としては水です。

 100℃では加熱によって与えられた熱エネルギーは、液体から気体に状態変化するために使われるために温度が上がりません。このとき水の内部でも状態変化が起こります。こうしてできた気体の水蒸気が次々と大きな泡として出てくるのです。

 

それではここまでのポイントをまとめていきましょう。

入試問題演習

 この記事で学んだことを活かして実際に出題された入試問題を解いてみましょう。

(茨城中 2018)

《解答》

  • (1) イ                 
  • (2) イ                 
  • (3) 体積             
  • (4) ウ                 
  • (5) ア

 

《解説》

 正解だけでなく,他の選択肢が間違っている理由も考えるとより深い学習につながります。

(1)

  • ア:空気中の水蒸気がフラスコ内の水によって冷やされて水滴ができたのであれば,加熱の必要がありません。問題文を読むと分かる通り,加熱を始めてからできた水滴なので間違いです。

 

  • イ:
    ガスは気体の有機物であるため,燃焼したときに二酸化炭素と水が生じます。水蒸気として生じた水は丸底フラスコで冷やされると状態変化を起こして液体になり,水滴として付着します。よって正解です。

 

  • ウ:
    フラスコ内の水蒸気が冷えてできた水滴ならばそれは付着するのだとすればフラスコの内側に付きます。加熱初めに付着する水滴は外側です。またあとにも出てきますが,フラスコ内の水蒸気が冷やされてできた水滴は湯気として外に出ていきます。よって間違いです。

(2)

  • ア:水や空気は加熱されると膨張するため,フラスコ内部から外へ出ていく空気の流れができているので外からは空気がほとんど入ってこないです。

    また外から入ってきた空気ならその泡は水面から現れるはずですが,②を見るとフラスコ底部から発生したものであることが分かります。さらに水にはもともとわずかな空気が溶けており,加熱するとその溶解度は下がるので新しく入ってくることはほとんどありません。よって間違いです。

 

  • イ:水を加熱することによって空気の溶解度が下がり,もともと溶けていた分の空気が溶けきれなくなって追い出され,小さな泡となって出てきます。よって正解です。

 

  • ウ:小さな泡が出てくる段階では,水が状態変化を起こして泡として出てくるのには温度が不十分なのでこれは間違いです。

(3)
フラスコの底で水が温められると物質を構成する粒子の熱運動が激しくなるため体積が大きくなります。同じ質量当たりの体積が大きくなるということはその部分は密度が小さくなります。

密度の小さい部分は氷が水に浮くように水の上部へ移動していきます。このときフラスコ内の水の内部で場所によって密度に違いが生じます。密度が異なると光の屈折率も場所によって異なるため,ゆらゆらして見えるようになります。

 

(4)

  • ア:(2)と同様の理由で間違いです。

 

  • イ:100℃近くになってくると空気の水に対する溶解度の変化が小さくなり,たとえ溶けきれなくなった空気が外に追い出されるとしてもその量はとても少なくなります。よって泡としては視認しにくくなります。よって間違いです。

 

  • ウ:水が100℃近くになってくると激しく沸騰が起こるようになってきます。これは水が状態変化を起こして気体の水蒸気となって大きな泡として次々と出ていく現象です。よってこれが正解です。大きな泡は空気ではないことに注意しましょう。

(5)
Cに冷たい水を入れた試験管を近づけて外側に水滴が付くのは,(1)と同じように,フラスコ上部のガラス管から出た水蒸気が試験管の水によって冷やされて液体となったものです。

図のガラス管の先からは高熱の水蒸気が出ています。Aの部分で見えないのは水蒸気が気体だからです。空気中に出てしばらく経つと周りの空気で冷やされることで液体,つまり湯気になります。これがBの部分で白く曇って見える原因です。

湯気になってしばらく経つと高温ではないですが再び蒸発してまた気体の水蒸気となって空気中に拡散して見えなくなります。これがCで再び見えなくなる理由です。

さてAの部分で空気中に放出された水蒸気はAから遠くなるほど空気中に拡散してその密度が次第に小さくなっていきます。ここでCで水滴が付いたということは,ガラス管の先から1番離れたCでも水滴が付着するのに十分な水蒸気が空気中に含まれるということです。

Cより水蒸気が多く含まれるAでは当然試験管の先に水滴が付きます。またBでも湯気の水滴がそのまま付着します。よって正解はアとなります。

 

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まとめ

今回は水を加熱した際に起こる現象についてその原因と効果を詳しく見ていきました。受験にとどまらず、普段の生活においても知っておくと便利な知識だと思うので、この記事を読み込んできちんと理解をするようにしましょう!