前回の国語のブログでは、中学入試問題でよく出題されるテーマについて、説明的文章を取り上げて分析してみました。今回は、文学的文章について解説していきます。
文学的文章で出題されやすいテーマとは?
前回扱った説明的文章は、内容も多岐にわたり、筆者の考えが色濃く出ているだけテーマも多岐にわたります。社会情勢が変わっていくたびにテーマが増えていくといってもいいかもしれません。
今回解説する文学的文章は、説明的文章よりも出題されやすいテーマは絞られるかもしれません。ですが、受験生と同年代の登場人物が登場するにもかかわらず、現代の受験生の生活とはかけ離れた、想像もつかないような設定の話がよく出題されますので、注意が必要です。
①受験生と同年代の少年少女の心情やその変化
これは、以前から変わらない傾向です。一番取り組みやすいという印象をお持ちになるかもしれません。普段、塾のテキストなどで読む物語文はこのテーマが非常に多いので、テーマ自体には抵抗が少ないでしょう。
良く出題されるものとしては、
- 思春期の少年少女の微妙な思い(あこがれ、周りの大人に対する不満、甘えたい気持ちをうまく出せない、ライバル意識、などがテーマになっているもの)
- 友達との関係や葛藤を描いたもの(友達とのけんか→仲直りまでの複雑な経緯、心情の変化を描いたり、今まで仲良しだったのに、急にそっけなくされてどうしたらよいか思い悩むなど)
などがあげられます。
「一見」取り組みやすいと書いたのにはわけがあります。テーマが少年少女の心情ということから、受験生と同年代の主人公を登場させて読みやすいように見せながら、実は現代の受験生の生活とかけ離れた状況下での話がよく出題されるため、受験生が「経験」していない場面設定になっていることがよくあります。
たとえば、最近でこそ珍しくなくなりましたが、以前は「親の離婚」にまつわる物語文は中学受験ではタブーとされていたこともありました。中学の説明会で抗議する保護者がいたこともあったそうです。しかし、現在ではよく出題されます。他にも、戦時下の少年少女の体験や、明治時代の封建的な家庭での出来事など、大人であっても伝聞でしか知識のない状況、ことばが平気で出てくる文章が多く出題されています。
受験生自身に「経験」がないと、状況設定を把握するのに時間がかかり、テーマとなっている心情やその変化を読み取るのに苦労し、設問全部に手を付けられないでアウト、ということが起こってしまうのです。
状況設定の理解と想像力がないと、「読めたけど意味が分からない」という状況に陥りやすいのが、「一見」一番とっつきやすそうなこのテーマなのです。
②人とのふれあい、交流、心の結びつき、人生
これもよく出題されてきたテーマです。以前はテーマ①と共通するような、受験生と同世代の子供を主人公にした文章が多かったですが、近年は変化が見られます。たとえば、
- 大人を主人公として、人と人の心の結びつきを描いたもの
- 家族との様々な心の触れ合いを描いたもの
- 大人が、自らの生きざまをを振り返って子供に語るもの
- 人との交流から、より善い生き方とは何か、を描いたもの
などが挙げられます。
大人を主人公にして、一部登場人物に子供が出てくる、という文章では、言ってみれば「大人の目線」が必要になってきます。数年前の麻布中(大人でも読み応えのある、重量級といってもよい物語文がよく出題されます)では、タウン誌の編集者が主人公となり、一人のおばあさんが飼っていた「カミツキガメ」の引き取り先を近所の子供たちが探したという「事件」について取材にいき、おばあさんから回想を聞き取って、「一人のおばあさんとカミツキガメ、それにまつわり繰り広げられた子供たちのドタバタ劇」という記事にまとめ、タウン誌に掲載したというストーリーが展開されました。
その半年後、近所の主婦から、実はそのおばあさんが取材の後「孤独死」したことを聞き、取材テープを聴き直します。すると、おばあさんが、物語には名前しか登場しないある子供と一緒によくカミツキガメを見ていたことを語り、その時間がとても楽しかったこと、その子が学校でいじめにあい、田舎に引っ越したこと、その後どうしているかしら、と最後まで案じていたことなど、記事作成当時は気にも留めなかった話がいろいろ思い出されてきます。
この文章そのものは、難しいことばが使われているわけでもなく、読むこと自体は難しくないでしょう。しかし、子供は確かに話の中には出てきますが、主に「大人の心情、後悔、生き様」といったものが描かれており、「大人の視点」がまさに要求されるものでした。
小学生の人生経験には限りがあるので、普段から大人に触れる機会が多かったり、他者の気持ちを「大人っぽく」考えるという目線を持っている受験生には難しくないかもしれませんが、多くの受験生には戸惑うこのような文章が出題されるのも、文学的文章の特徴です。
③少年少女の心の成長、自立
こう書くと、「あ、よくあるテーマね」と思われるかもしれませんが、これもなかなか正確に文章の中身を把握するのが難しい文章が多いテーマです。
- 親の目線から子供の成長を描いた文章
- スポーツや音楽など、何かを修得することを通して、心の成長を描いた文章
- 少年少女が、様々な体験から自らの成長を感じ取った瞬間を描いた文章
などが挙げられます。
ここでも、「大人の目線」が出てきます。また、部活動などを通した成長がテーマだと、受験生よりもう少し上の年代の学生を主人公にしているため、完全に自分と重ね合わせるのはなかなか難しいものです。また、同じような体験をしていないと想像ができなかったり、していたとしても「自分は成長を感じ取ってないなあ」と思った瞬間、主観的な読み取りに走ってしまい、出題者の思うつぼにはまる、などの難しさがあります。
親が子供に自分の人生を重ね合わせて感慨にふける、というようなことは受験生には想像もつかないでしょう。ここでも、受験生の生活と必ずしもかけ離れているわけではないかもしれませんが、簡単とは言えないテーマが扱われています。
終わりに
文学的文章は、表現が平易なものであっても主題を読み取りにくく、設問が難しいことがよくあります。逆に、表現がわかりにくいかわりに設問が易しいものもあります。いずれにせよ、作者が意図している「登場人物の心情」を描いていることに変わりはないですが、先ほども書いたように、現代の受験生の生活とはかけ離れた状況の話が出題されたり、必ずしも主人公は子供とも限りません。非常に多様な場面展開を読み取らなければならないのです。
文学的文章では、「心情、気持ち」の読み取りだけでなく、場面、状況設定を正確に理解することと、その場面に対する想像力が重要になってきます。もちろん設問に答えるためには、「客観的に」読まなければなりませんが、「気持ち」の部分ばかりに目が行ってしまうと、場面設定を読み誤り、「気持ち」の読み取りそのものもずれてしまいます。
小学生の人生経験には限りがありますから、読書経験がものを言う文種といえるかもしれません。普段の学習を通して、あるいは塾などに相談しながら過去問を使うなどして、様々なテーマの文章に触れてほしいと思います。
一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。