先日のブログでは、中学受験の算数について、もっとも基礎であり大切な力は「計算力」だということをお伝えしました。その中で書いたように、受験に求められる「計算力」は、「正確」で「速い」というレベルに達していなければなりません。
時間をかけて丁寧に正解する、それ自体はの頭で考え、試行錯誤しながら解法をみつけて解答するという思考力がなければならないので、とても大切なことといえます。ですが、中学受験の算数の制限時間は50分から長くて60分程度と、大学受験などとは比べ物ににならないほどの短さです。また、その短い制限時間の中で解かなければならない問題の数は大変多いといってもいいでしょう。
つまり、1問に対してゆっくり時間をかけることはできず、次々に頭を切り換えながら多くの問題を解いていかなければなりません。途中でつまずいてしまうと時間切れになったりと、合格点には達しないのです。そのことから考えても、特に中学受験では、「正確で速い」計算力をしっかり身につけておくことが受験算数を克服する第一歩と言っても過言ではありません。
ですが、「正確で速い」計算力を身につけるためには、ただ何も考えずに大量に計算問題だけを解き続けていればよいというものではありません。中学受験の算数では、いわゆる計算だけをさせる計算問題ももちろん出題されますが、特に難関校では、大半の問題が文章題(図形の問題を含む)が出題されます。難関校でなくても、文章題や図形の問題では、自分で問題文からヒントを見つけ、式を立てて計算を正確に行って正解を出す、というプロセスは必ず必要になってきます。
多くの学校では、このような文章題の場合、思考過程を見るために途中の式など考え方を書かせ、部分点を与えてくれますが、中には、そのような問題を出題しつつ、途中式を書くペースを設けずに、解答だけ書かせる形式の学校もあります。たとえば、海城中学校などは、「あてずっぽうで解いても正解は出ない問題を出題している。正しい答えを出せるということは、思考過程も正しく、計算も正確にできているということだからこそ、解答だけを各形式にしている」と入試広報担当の先生がおっしゃっていました。
つまり、受験算数では、一口に「計算」といっても単なる「計算だけをやらせる問題」ではなく、広く算数の問題全般に関係する「計算」について、正確で速い力が求められる、ということです。あくまで、単に「計算力」という一言では片づけられない、「受験算数で確実に正解できる力」の前提として、正確で速い計算力が要求されているということを意識しましょう。
では、どのようにすれば、そのような文章題でも正確で速い計算をし、確実に正解する力をつけることができるのでしょうか。長い文章題は、ただ力業で計算に持ち込んで回りくどいやり方で計算しても正解することは難しいです。よほど計算が得意なお子さんはともかく、そのような力技ではまず時間切れになりますし、途中でミスを誘発してしまいます。そこで必要になってくるのが「計算の工夫」です。今回は、この「計算の工夫」を含めた、計算の正しいやり方について詳しくお伝えしていきたいと思います。
Contents
「計算力」の重要さと克服の難しさについて
先日の計算力についての記事の内容をまとめると、以下の内容をお伝えしました。
- 計算力は、これから受験当日までの算数の成績を左右するくらい非常に重要になってくる。
- 計算力を身につけるためには「量」は必要。毎日一定時間計算練習を行うことはとても大事。
- 「量」も大切だが、ただ練習すればよいというわけではなく、「質」も重視すべき。
- そのためには、計算の「正しいやり方」をできるだけ早い時期に身につける必要がある。速ければ早いほどよい。
- 多くの受験生は「質」よりも「量」に追われがち。塾からも大量の計算練習が日々の家庭学習として課されているが、単にそれをこなしていても力をつけるのは難しい。
- 集団塾では、計算の正しいやり方までチェックし、指導してくれることはなかなか望んでも無理。
- 計算のただしやり方を身につけるには、リアルタイムで修正してもらい、自分のやり方を見直す環境がベストだが、軽視されがち。
計算というとどうしても「量」をこなせば力がつく、という意識を持ってしまうかもしれませんが、「量」だけではなく「質」、つまり正しいやり方を身につけることが大切です。では、どのようにすれば計算の「正しいやり方」を身につけることができるのでしょうか。
もし、四則計算(たし算、ひき算、かけ算、割り算)という、計算の規則が身についていない、自由自在にそれぞれの計算ができない、時間がかかる、あるいは九九があやふやである、分数の考え方がわかっていない、という場合には、今すぐ、まずはその克服に力を入れてください。四則計算の基礎ができていないと、どんなに計算練習を積もうとしても、時間ばかりかかり、正答率も低くなってしまい、結果として算数の成績を上げることはできません。
ここでは、「四則計算」という計算のルールをマスターしていることを前提に「計算の正しいやり方」を身につけるにはどうするのがよいのかということについて書いていきます。
「計算の正しいやり方」は、受験の結果に直結する
先ほどの四則計算のような計算については、普通に計算できるようになるまで、まずは計算ドリルやプリントなど、塾の教材や問題集などを使って、練習を繰り返す、つまり「量」を積むことは避けて通れません。そして、ある程度、計算の「量」をこなすと、計算自体は(スピードの点では問題があったとしても)できるようになります。
ですが、「計算」はある程度の量をこなせば誰もができるようになりますが、果たして「正しいやり方」でできているか、という点から考えると、実際にできている受験生は非常に少ないのが現状です。この「正しいかどうか」というのはすなわち、入試問題で正解できることに直結します。つまり、「正しいかどうか」の基準は、「受験で結果を残せるかどうか」ということと言ってもよいでしょう。
公文と受験算数の関係
よく、公文で計算の練習をしているけれど、いつまで続ければよいか、という受験生の親御さんからのご質問を受けることがあります。中学受験を考えて公文を続けているのならば、当然ですが中学受験生が高校数学までマスターする必要はまったくありません。中学受験で必要な段階をマスターした段階までで十分です。
公文についてはご家庭によって考え方が違うところで、小学校低学年で最終教材まで終わらせるという方もいらっしゃいますが、中学受験をお考えならば、先へ先へ進むというよりも、中学受験に必要な範囲まで理解し、正確に、速い計算力がついていれば十分です。四則計算、分数のかけ算、割り算までできているかが一つの目安になるでしょう。
中学受験に必要な範囲の計算が自由自在にできるようになれば、それ以上のことは中学受験と直結しないので、いったんその時点でお休みすることをオススメします。たとえば、中学受験では方程式を真正面から使うことはできませんが、中学数学の内容に入って方程式を学ぶと、それを入試当日まで使うことがクセになってしまう恐れもありますので、注意してください。
また、公文は、同じ単純な計算問題を繰り返しやらせることでスピードをつける教材が使われますが、小学生の場合、早く終わらせようとして、実際に問題を解かずに、前にやった答えを覚えて書いて終わらせるという方がいらっしゃいます。それでは時間を使う意味がありませんし、文章題を解く際にも答えを覚えて途中過程をよく考えないようになってしまいます。
場合によっては、計算問題を楽なものだと考えてしまうようになってしまうこともあります。計算力が身についていないにもかかわらず、です。そのようなクセがついてしまうと、文章題でも一度やった問題の答えを覚えて書き写す勉強をするようになりかねないので、お子さんの取り組み方をよくみてあげてください。
「受験で結果を残せる計算力」とはどのようなものか
根本的に必要なのは「間違えない計算力」と「スピード」
では「受験で結果が残せる計算力」とはどのようなものでしょうか。当たり前かと思われるかもしれませんが、一言でいうと、それは「間違えない」計算力です。そこに「スピード」が加わることで、計算で「間違えない」ようになるのです。
計算が遅くても、それはよく考えながらやっているのだから、その分だけ解答の正確性が上がるとお考えになる親御さんが実は非常に多いのですが、それは事実とは言えないでしょう。実際にお子さんの計算問題の間違いが多くてお悩みの方はお子さんの計算のやり方をよく見てみてください。むしろ、遅い方が正解率が下がっている場合が多いです。「計算が遅い=ていねい」とは必ずしも言えないのです。
もちろん、急ぐあまりに自分の力の限界を超える速さで計算しようとすると、その分計算が雑になり、正解することは難しくなりますが、適正なスピードならば、「計算」の正解率は少なくともキープできます。あとは、その「適性なスピード」を上げていけば、さらに計算問題の正解率は上がっていきます。
暗算はミスをするからやってはダメ?筆算は安全確実?
計算をするときに、「暗算はミスするからやってはダメ」、「筆算しておく方が検算もできるし安全確実」という認識をお持ちの方も多いと思いますが、それも必ずしも正しいとは言えないと思います。大量の計算をしていかなければならない受験勉強においては、「暗算」の力がないと苦労することは明白です。
また、筆算についても、複雑なものに関しては必要性が高いですが、暗算で正しくできる易しい計算をいちいち筆算していては、問題用紙の空きスペースに書き散らかすことになってしまい、かえって計算ミスが意外なほど多くなってしまいかねません。
「暗算力」はとても大切
「間違えない計算力」を身につけるためにまず必要なのは、「暗算力」です。暗算は危険では?と思われるかもしれませんが、頭の中で確実にできることは瞬時にできるようにしておくことも、「間違えない計算力」を身につけるためには必要です。
たとえば、「かけ算」を筆算でやる場合、繰り上がりを頭ので行う、ということも一種の「暗算」です。繰り上がりをいちいち指折り数えてやるようでは、スピードはつきませんし、かえって間違いのもとになります。「暗算」ができないと、計算の過程がかえってかなり細かいものとなってしまうため、それが結果的に計算ミスを生む原因となることもあります。
計算ミスを生む具体例
繰り上がり、繰り下がりは計算を苦手としている受験生にとって頭の痛いところになっているのではないでしょうか。いま例に出した「かけ算の筆算」について考えてみると、具体的にどれだけの計算過程をミスなくやらなければならないかわかりやすいので、もう少し見てみましょう。
たとえば、3ケタ×2ケタの「筆算」をする場合、多いときは「かけ算(九九)」を6回、「たし算」を8回行うことになります。九九を一段階行えばいい計算とはずいぶん難度が上がります。その最大6回のかけ算、8回のたし算のどれか一つでもミスしてしまえば、それで不正解になってしまいます。
ひとつの筆算ですらこれですから、1回のテストで出てくる「計算」はかなりの量になり、やらなければならない計算の量が非常に多くなることがわかると思います。それだけ多くの計算があると、それらすべてを正解するということは、そう簡単なことではないということがわかるのではないでしょうか。計算くらいで・・・と思うかもしれませんが、算数は最終的には計算で解答を出すのですから、バカにすることはできません。
また、繰り上がりの部分を暗算でやろうとするならば、その数字を記憶しておく必要があります。ほんの一瞬記憶して次の計算に行けばいいのですが、時間をかけすぎてしまうと忘れてしまい、間違えてしまうリスクがあります。繰り上がりはそのケタの横にメモしておけばよいのですが、それも含めて計算で大切なのは「テンポ」や「リズム」ということになり、「ゆっくり慎重にやれば正解できる」という姿勢は逆にミスを呼ぶことになってしまいかねないので注意が必要です。筆算をしているのに間違えが多い、そんなときはお子さんの筆算のやり方をよく見てみることをオススメします。
とても多い「書き間違い」
また、中学受験生に多い筆算のミスの中に「書き間違い」があります。筆算はどうしても問題用紙の空きスペース、脇に書いて行うことになりますよね。そのため、「行き」と「帰り」の両方でミスが起こる可能性があるのです。つまり、計算をする段階と、検算をする段階でミスが起きやすいということです。筆算はきちんと順序立ててやっていけばよいのですが、必ずしも「筆算をしておけば安全」とはいかないのが現実ではないでしょうか。
筆算はうまくできれば強い味方ですが、頼りすぎると危険でもあります。また、筆算の量が増えすぎてもあちこちに書いてしまってどの順序で計算をしたのかがわからなくなってしまい、ミスを誘発することも多いです。実際にそのような経験をされた方も多いのではないでしょうか。
そうすると、できるだけ「筆算」は減らしたい、正確に言えば「やらなくてもよい筆算を減らす」ことが必要になってきます。そのために必要なのが、「計算の工夫」です。
計算ミスをしないための「計算の工夫」とは
では、「計算の工夫」とはどういうものでしょうか。頭から力技で計算していくのではなく、場合によっては途中部分をまず計算して計算全体を楽にする工夫、と言ってもよいかもしれません。「計算の工夫」でよく使う考え方やテクニックをまとめておきましょう。
分配法則とその逆
「計算の工夫」でよく使われるのは、「分配法則とその逆」です。
分配法則とは、(数字ア+数字イ)×数字ウ=数字ア×数字ウ+数字イ×数字ウ というものです。カッコで囲ってある部分でよく使いますね。数字ウの代表的な例が円周率の3.14などです。逆に、数字ウ(3.14)でくくって計算することも多いですね。
分配法則は計算に必ず出てくる大切な考え方です。むやみに頭からやるのではなく、数字ウでくくる、くくられているものを計算しておく、と言った工夫をすると、計算間違いが減ります。
計算の工夫では分数を使うことも重要
「計算の工夫」でもう一つ重要なのは「分数」を使うことです。分数と「割り算」は切っても切れないものですが、その関係をうまく使って、ミスが出やすい「割り算」を、「分数のかけ算」に直して計算することによって、計算の負担を減らすことができます。
ただし、計算に分数をうまく使うためには、まず分数の考え方をしっかり頭に入れておき、瞬時に割り算を分数のかけ算に置き換えることが必要になります。分数は、中学受験生がつまずきやすいところです。まずは分数の計算を自由自在にできるようにしておくことが大前提です。もし苦手意識を持っているようなら、基礎に戻って分数の考え方を理解し、分数の計算練習をしっかり積んでおきましょう。
分数の利用は「意識」しないとうまくいきません。計算しにくい割り算が出てきたら、分数のかけ算に置き換える、それが自然にできるようになるように練習しておくことがとても大切です。割り算をするときに、今まで学習してきた公式は「÷」を使っていますよね。これを分数を使ってかけ算に修正しなければなりません。また、「組み合わせの公式」などは分数になっていることが多いので、そういった公式を使いこなせるようになるためにも分数を自由自在に使うことができるということはとても大切なことなのです。
覚えておいた方がよい数字もある
計算を速く、正確に行なうために必要な「計算の工夫」ですが、それをうまく行うためには、いちいち計算しなくてもよいように、覚えておいた方がよい数字がいくつもあります。
たとえば、「平方数」があります。九九だけでできるものは身についていると思いますが、代表的なものは1ケタではなく2ケタの平方数も覚えておくと、計算をするときにいちいち時間をとらなくて済みます。たとえば、12×12、25×25などは非常によく使います。ぜひ覚えておきましょう。
また、「三角数」や「2の累乗」も覚えておくと便利ですし、計算も正確で速くできるようになるポイントです。
「三角数」とは、正三角形の形に点を並べたときに、点の個数として表れる数字のことです。三角数を小さい順に並べていくと、1、3,6,10、15,21・・・となります。あまり大きい数字まで覚えておく必要はありませんが、規則性があるので、その規則も一緒に覚えておくと計算が速くなります。
「2の累乗」は2をどんどんかけていくといくつになるか、その数字のことですが、2を何回かけたらどの数字になるか、よく出るものは覚えてお区と便利です。
これらの代表的な計算の工夫に必要な数字のほかにも、計算の工夫にはいろいろなテクニックがあります。使いやすいものを覚えておくとよいでしょう、たとえば、「25で割り算をするよりも、4倍して小数点の位置を2つずらした方が楽」など、便利なものがたくさんあります。そういったものに出会ったときには、ぜひ覚えておくようにしたいですね。
まとめ
今回は、「計算の工夫」についてまとめました。「受験で結果を残せる計算力」=「間違えない計算力」と書きましたが、受験算数の成績の差は計算力がいかに身についているか、使いこなせるかどうかにかかっています。
計算を行わない算数の問題はまずありません。1問の中にも、いくつも計算の過程が必要になります。これらを制限時間内で正確にスピーディに解いていくためには、もちろん計算に持ち込むために式を立てることが必要になりますから、問題の解法をしっかり理解することは非常に大切です。
ですが、解法がわかっても、式を立てることができても、最後の計算で間違ってしまっては、決して正解することができない、つまりそれだけ正確で速い計算力が重要であることを今一度確認しましょう。そして、計算ミスをただのミスで終わらせることなく、なぜ間違えたのかをしっかり検証して、自分が間違えやすい計算のパターンをつかんでおきましょう。
そのうえで、しっかり計算練習を積むことが必要です。あくまで、計算練習にどのような意味があるのか、それを意識しながらやるようにしましょう。ただ数字を組み合わせるだけなら計算とは言いません。数字を自由自在に扱うことができるようになってこそ、正答率も成績も上がっていきます。そのためには、計算の工夫も必要です。
また、計算は簡単と思われることが多いのですが、実は受験生にとっては非常に緊張する場面でもあります。「間違えてはいけない」「速く終わらせて次の問題をやらなければ」という焦りを生んでしまうからです。計算ミスは初歩的なミスに見えるかもしれませんが、積もり積もればもはやミスとして見過ごすことができないほど点数を失ってしまいます。
もし、お子さんが計算でミスを繰り返すようなら、力技で回りくどくやっていないか、暗算をうまく使えているか、筆算のやり方はどうか、そういった根本的なところを見直すところから始めてください。まだ時間は十分あります。なかなか計算を見てあげる時間がとれないという場合は、算数の個別指導などで計算もしっかり意識してみてもらうことをオススメします。
算数については、個別指導や家庭教師を活用しておられるご家庭も多いと思います。成績を上げたいから、というのが一番の理由ですよね。それであれば、どのような問題にも必ず出てくる計算について、正確に、速くできているか、どのようなところでつまずいているか、しっかり解き方を見てもらってお子さんが間違いを意識できるように指導してもらうことが、計算ミスを減らす近道です。
せっかく個別に指導してもらうのなら、計算よりも難しい問題の解き方を教えてほしい、と思われるでしょう。それは、計算を「簡単なもの」と思ってしまっているからです。ですが、算数の成績に不安がある受験生は、計算力に問題があるケースが非常に多いのも事実です。計算は、決して「簡単なもの」ではないのです。
計算のやり方を見直すことで成績が飛躍的に上がることもあります。ぜひ、早いうちに、正しい計算のやり方、計算の工夫を身につけ、どのような問題でも計算で減点されないようにしっかり計算力をつけていきましょう。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。