今回は2020年度の静岡大学の教育、人文社会学部の国語の過去問を一部修正して漢文問題の解き方を解説していきたいと思います。
問題
『宋名臣言行録』とは?
中国、宋代の伝記書。75巻からなり、朱熹撰による「五朝名臣言行録」10巻、「三朝名臣言行録」14巻、朱熹にならって弟子である李幼武撰による「皇朝名臣言行録」8巻、「四朝名臣言行録」上下26巻、「皇朝道学名臣言行外録」17巻の五書を合冊したものです。北宋8代,南宋4代の諸名臣の言行をまとめ、世の教えとしたもの。
朱熹(朱子)とは?
中国、南宋の儒者。宋の周敦頤、程顥、程頤、張載、李侗らの学を合成して朱子学を大成させました。宇宙を原理としての「理」と、存在としての「気」とからとらえる理気説などを唱えました。朱熹が大成させた朱子学は後に江戸時代になって広がります。
問1
傍線部①を、書き下し文にしなさい。
【解答】人事得失の致す所に非ずと
返り点を施すと以下のようになります。
傍線部①の前の「有於上前言災異皆天数」に注目します。「災異」(地震・洪水・火事などの災い)は「天数」(自然の巡りあわせ)であると言っています。そのことを受けての傍線部①の箇所になり、「人事に起因するものではない」という意味になるよう書き下すようにしましょう。また傍線部①は会話文の最後に当たるので、引用の助詞「と」を補足しても。
問2
傍線部②を、目的語を補いながら口語訳しなさい。
【解答】
邪悪な臣下が天を恐れることなど必要ないという誤った考え方を説いて皇帝を導いて国を乱そうとするので、私はこのような大事から皇帝を救わねばならない。
傍線部②を書き下すと以下のようになります。
「吾れ、速やかに救はずんばあるべからず(と)」
直訳すると、「私は速やかに救わねばならない」となります。誰が誰を何から「救わねばならない」のかをおさえていきましょう。
まず、会話主は「富弼」です。「富弼」が救わねばならないと考えているのは「皇帝」です。救わなければならない事態は傍線部②の前の「人君所畏惟天〜」のから始まる部分にあたります。皇帝に天を恐れることなど必要ないという誤った考え方を説き、国を乱そうとしている人がいることに対し、富弼は危機感を抱いているのです。
よって
- 天を恐れる必要はないと皇帝に間違った考え方を説き、国を乱そうとしていること
- 策略から皇帝を救わねばならない
という内容をおさえておきましょう。
問3
傍線部③の内容を、「其」のさすものが具体的にわかるように説明しなさい。
【解答】
皇帝の前で、厄災や天変地異は自然の巡り合わせで、君主の人事に原因があるわけではないと進言した者がいたが、それは間違いで天を恐れないことはあってはならないということ。
傍線部③を書き下すと以下のようになります。
「其の決して然からざる者を」
直訳すると、「その決してそうではない者を」となります。「決してそうではない」と強く否定しています。富弼が強く否定している内容はこの文章全体に書かれている皇帝に讒言した内容になります。それは本文の1行目、「有於上前言災異皆天数、非人事得失所致者」(地震・洪水・火事などの災いは自然の巡りあわせであって皇帝の行った人事によるものではない)ということです。