【大学受験】過去問題〜古典問題読解・解説〜鎌倉時代の説話集『沙石集』

今回は2020年度の法政大学文・法・経営学部の国語の過去問を一部修正して古典問題の解き方を解説していきたいと思います。 

問題の前に取り扱われている『沙石集』について説明します。『沙石集』は鎌倉時代の説話集です。編者は無住道暁です。 

問題

つぎのA・B二つの文章を読んで、後の問いに答えよ。 

A

昔、*三井寺、*山門のために焼き払はれて、堂塔・僧坊・仏像・経巻、残る所無し。寺僧も山野に交はり、人も無き寺に成りにけり。寺僧の中に一人、*新羅明神へ詣でて、*通夜したりける夢に、明神、御戸を開きて、1に御心地よげに見え給ひければ、夢の中に思はずに覚えて、「『我が寺の仏法を守らぬ』と誓ひあるに、かく失せ果てぬる事、いかばかり御歎きも深から①思ひ給ふに、その御気色悪き事、いかに」と申しければ、「誠にいかでか歎き思しめさざらむ。されども、この事によつて、真実の菩提心を発せる寺僧一人ある事の悦ばしきなり。堂・塔・仏・経は、財宝あらば作り②べし。菩提心を発す人は、千万人の中にも( X )こそ」と仰せられけると見て、かの僧も発心して侍りけりとこそ申し伝へけれ。

B

*東塔の北谷にありける僧、余りに貧しき事を歎き思ひて、*日吉へ百日参詣して祈り申しけるに、「2相計らふべし」と仰せある示現を蒙りて、悦び思ひてすごす程に、聊かの事によりて、年来の房主に追ひ出されて、寄る方も無かりけるままに、西塔の南谷なる房に同宿しけり。示現蒙りて後は、物を待つ心地にてありけるに、させる事無きのみにあらず、房主にも追ひ出されぬ。面目も無く覚えて、また参籠して祈請申す程に、示現を蒙りけるは、「*先業拙くして、いかにも福分なき故に、東塔の北谷は寒き房なれば、西塔の南谷は暖かなる房なれば、遣りたる③なり。これこそ『小袖一つの恩』と思ひ計らひたるなり。この外の福分、我が力の及ぶ④べきにあらず」と示し給ひける後は、思い切りて祈り申さず。

(『沙石集』より 

【注】 

*三井寺…滋賀県大津市にある天台宗の大寺院。正式には園城寺といい、略して「寺」「寺門」、その僧を「寺僧」といった。
*山門…大津市と京都市にまたがる比叡山にある延暦寺のこと。天台宗の総本山。三井寺と長年、抗争関係にあった。
*新羅明神…三井寺の守護神。
*通夜…寺社に籠って一晩中祈願すること。
*東塔…比叡山の区域の名称。比叡山は東塔・西塔・横川の三つの区域から構成された。
*日吉…比叡山麓にあった日吉大社のこと。比叡山を守護する日吉山王権現が祀られている。
*先業…前世で行った善悪のふるまい。

問1

傍線部①「ん」②「ぬ」③「べき」の文法上の意味として、最も適切なものをつぎの中からそれぞれ選びなさい。 

ア、意志
イ、打消
ウ、可能
エ、強意
オ、原因推量
カ、現在推量
キ、推量
ク、断定
ケ、伝聞

【解答】
①キ、推量
②エ、強意
③ク、断定
④ウ、可能

それぞれ品詞分解して説明します。 

①「深からん」⇨形容詞深し未然形助動詞
助動詞」の意味は推量・意志・適当・勧誘・婉曲・仮定
「いかばかり御歎きも深からんと思ひ給ふ」…いかばかり(どのように)とあり推量の意味が一番適当だと考えられます。 

②「ぬべし」⇨完了・強意助動詞終止形推量の助動詞べし」の連語
連語の場合、「」の意味は強意になります。
「ぬべし」連語の意味は以下のようになります。

  1. 推量…きっとだろう。…てしまうにちがいない
  2. 可能…できるはずである。…できそうだ
  3. 意志…てしまうつもりである。きっとしよう。…てしまおう 
  4. 当然、義務…てしまわなければならない。どうしてもなければならない

③「遣りたるなり」⇨動詞遣る連用形助動詞たり連体形助動詞なり終止形
連用形につく助動詞たり」は完了、連体形につく助動詞なり」は断定の意になります。

④「及ぶべき」⇨動詞及ぶ終止形助動詞べし連体形
助動詞べし」は推量・意志・当然・適当・命令・可能の意味があります。
べきにあらず」「べからず」のような形で可能の否定出来ないという意で使われることが多いです。

問2

空欄( X )に入る語として最も適切なものをつぎの中から選びなさい。

ア、あいなく
イ、ありがたく
ウ、うるはしく
エ、えうなく
オ、くちをしく

【解答】イ 

それぞれの意味を解説します。

ア、あいなし…①気に入らない。不快である。②つまらない。おもしろくない。③不似合いだ。不調和だ。

イ、ありがたし…①めったにない。めずらしい。②めったにないほど優れている。貴重だ。③生きにくい。過ごしにくい。④むずかしい。容易でない。⑤尊い。おそれ多い。

ウ、うるはし…①壮大で美しい。壮麗だ。立派だ。②きちんとしている。整っていて美しい。端正だ。③きまじめで礼儀正しい。堅苦しい。④親密だ。誠実だ。しっくりしている。⑤色鮮やかだ。⑥まちがいない。正しい。本物である。

エ、えうなし…必要がない。役に立たない。

オ、くちをし…①残念だ。がっかりする。②不本意だ。はがゆい。不満だ。惜しい。③情けない。つまらない。感心しない。

問3

傍線部1「に御心地よげに見え給ひければ」とあるが、その理由を説明したものとして最も適当なものをつぎの中から選びなさい。 

ア、三井寺が焼け失せたことによって、寺院の再建に向けて多くの僧たちが心を一つにする環境が整ったから。
イ、三井寺が焼け失せたことによって、多くの寺僧が世の中の無常を悟り、極楽往生を求める心が強まったから。
ウ、三井寺が焼け失せたことによって、この僧が何事にもとらわれず、仏道に専心できる状態になったから。
エ、三井寺が焼け失せたことによって、この僧が仏道を追求する心を一層深め、三井寺の再興を心に誓ったから。
オ、三井寺が焼け失せたことによって、この僧が新羅明神への信仰心を深め、明神に三井寺の守護を強く願ったから。

【解答】エ

「されども、この事によつて、真実の菩提心を発せる寺僧一人ある事の悦ばしきなり」という部分が重要です。三井寺が焼け失せたことにより、行動を起こしたのは一人の僧です。よってア、イは当てはまりません。「真実の菩提心」から明神への信仰ではなく、仏道への追求だと考えられます。 

問4

『沙石集』と同じ時代に成立した作品をつぎの中から一つ選びなさい。

ア、閑吟集
イ、太平記
ウ、古今著聞集
エ、今昔物語
オ、日本霊異記

【解答】ウ 

それぞれの作品の説明と成立時期を以下の表にまとめました。 

作品名  成立時期  内容 
日本霊異記  平安時代初期  現存する最古の仏教説話集 
今昔物語  平安時代末期  天竺、震旦、本朝の三部からなる説話集 
古今著聞集  鎌倉時代  橘成季編、説話集 
太平記  南北朝時代  文保2年(1318)後醍醐天皇の即位以後、約50年の期間を描く軍記物語 
閑吟集  室町時代  室町時代に流行した小歌の代表的集成 

冒頭で説明した通り、『沙石集』は鎌倉時代に成立した説話集です。よって同時代に成立した作品は「ウ、古今著聞集」になります。 

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