今回は詩の読解ということで、2015年の明治学院中学校の国語の問題にて出題された三好達治『涙をぬぐって働こう』の問題を用いて説明していきます。
問題
次の詩を読み、あとの問いに答えなさい。
みんなで希望をとりもどして涙をぬぐって働こう
忘れがたい悲しみは忘れがたいままにしておこう
苦しい心は苦しいままに
けれどもその心を今日は一たび寛ごう
みんなで元気をとりもどして涙をぬぐって働こう最も悪い運命の台風の眼はすぎ去った
最も悪い熱病の時はすぎ去った
すべての悪い時は今日はもう彼方に去った
楽しい春の日はなお地平に遠く
冬の日は暗い谷間うなだれて歩みつづける
今日はまだわれらの暦は快適の季節に遠く
小鳥の歌は氷のかげに沈黙し
田野も霜にうら枯れて
①空にはさびしい風の声が叫んでいるけれども
②すべての悪い時は今日はもう彼方に去った
かたい小さな草花の蕾は
地面の底のくら闇からしずかに生れ出ようとする
かたくとざされた死と沈黙の氷の底から
( ③ )は一心に働く者の呼声にこたえて
それは新しい帆布をかかげて
明日の水平線にあらわれる
ああその遠くからしずかに来るもの信じよう
みんなで一心につつましく心をあつめて信じよう
みんなで希望をとりもどして涙をぬぐって働こう
今年のはじめのこの苦しい日を
今年の終りのもっと良い日に置き代えよう(三好達治「涙をぬぐって働こう」)
問一
この詩に何詩に分類されるか、次から最も適切なものを選び、記号で答えない。
ア 文語定型詩 イ 文語自由詩 ウ 口語定型詩 エ 口語自由詩
解き方
解答する前にそれぞれの言葉について説明していきたいと思います。まずは口語と文語についてからです。
口語
書きことばに対し、話すときに用いることばづかい。また、これをもとにした書きことばをもあわせていう。日本の現代の口語は、文法上、用言の活用形式、助動詞の用法に主たる特色がある。話しことば。音声言語。口頭語。(『精選版 日本国語大辞典』)
文語
話しことばに対し、文章を書く時に使うことば。文字言語。書きことば。文章語。(『精選版 日本国語大辞典』)
話しことばは“口語”、書きことばは“文語”という覚え方をするとよいでしょう。
定型詩
詩句の数やその配列の順序などに、一定の型式をもっている詩の称。伝統的な音数律にしたがってよまれることが多い。漢詩の五言・七言の律詩・絶句、和歌・俳句、七五調の新体詩、西洋のソネットその他押韻詩など。(『精選版 日本国語大辞典』)
自由詩
伝統的な詩の韻律や形式にとらわれず、自由な内容・形式で作る詩。日本では特に現代口語を用いた詩をさすことが多い。イギリス・アメリカの詩では、韻律と脚韻の伝統的な定型に従わず、その音韻的効果としてはもっと他の要素(頭韻・全体の抑揚など)によるものをいう。近代自由詩の創始者としてホイットマンがあげられる。日本では、明治四〇年(一九〇七)九月、川路柳虹の口語詩「塵溜(はきだめ)」が新体詩の定型から脱離したときに始まり、相馬御風、河井酔茗らがこれを推進した。(『精選版 日本国語大辞典』)
定型詩は決まった型式がある詩をさし、自由詩は型式にとらわれない詩というように覚えましょう。
以上を踏まえると、この問題の詩は口語で書かれ、特定の型式がないことから口語自由詩(エ)になります。
問二
_部①で使われている表現方法を次から選び、記号で答えなさい。
ア 直喩法(たとえであることがはっきりわかる表現方法)
イ 倒置法(語句の順番をあえて逆にした表現方法)
ウ 擬人法(人でないものを人であるかのように描く表現方法)
エ 反復法(同じ語句を繰り返しもちいる表現方法)
解き方
問題となっている①空にはさびしい風の声が叫んでいるをみてみましょう。
まず、アの直喩法は「〜のようだ」という直接的にたとえと分かる表現がないため当てはまりません。イの倒置法も「風の声が」(主語)「叫んでいる」(述語)という形になっており、語句の順番が変わっていないため当てはまりません。エの反復法も同じ語句が繰り返されていないため当てはまりません。
よって正解はウの擬人法になります。擬人法は人でないものを人であるかのように描く表現方法です。この場合は主語が「風の声」となるので人ではない風の声が「叫んでいる」ということで擬人法が使われていることがわかります。
問三
_部②を十一字で象徴的に表している箇所を詩の中からそのまま抜き出しなさい。
解き方
問三の問題はやや難しいかもしれません。まずは下線部の前後に関連する内容が描かれていないかみていきます。しかし、「すベての悪い時」の内容が書かれている箇所は見受けられません。では他の連をみていきましょう。そうすると、一つ前の第二連に同じく「すべての悪い時は今日はもう彼方に去った」と書かれいる箇所があります。
その前をみると、「最も悪い運命の台風の眼はすぎ去った」、「最も悪い熱病の時はすぎ去った」と“最も悪い”という内容が書かれた2つの文があることが分かります。よって「すべての悪い時は今日はもう彼方に去った」の“すべての悪い時”の内容がここに書かれていると解釈することが出来ます。更に、問三の問題には十一字で象徴的に表していると指摘されているので「最も悪い熱病の時はすぎ去った」は十四文字なので多く、「最も悪い運命の台風の眼はすぎ去った」は十一文字なので、答えは最も悪い運命の台風の眼はすぎ去ったということが分かります。
問四
空らん③に入る語句を文中から漢字二字で抜き出しなさい。
解き方
問四の場合も問題となっている箇所の前後をみていきます。すると後ろの文に「それは新しい帆布をかかげて」とあります。この“それ”が③に入る言葉と同じだと推測出来ます。更に後ろをみていくと「ああその遠くからしずかに来るもの信じよう」とあり、今度は“遠くからしずかに来るもの”と表現されています。その次も「みんなで一心につつましく心をあつめて信じよう」と“信じよう”という表現が続きそれが何なのか具体的なことは名言していません。
そして次の文でやっと、「みんなで希望をとりもどして涙をぬぐって働こう」と具体的な“希望”という言葉が出てきます。よって答えは希望となります。
問五
この詩はどんなことを表現しているのか、次から最も適切なものを選び、記号で答えなさい。
ア まだまだ辛く厳しい日々は続いているが、良い時が来るとはまだ思えない。でも、春が来たときにはみんなが心を集めて働かなくてはならないと鼓舞している。
イ まだまだ辛く厳しい日々が続いているが、一番辛いときは過ぎ去った。来るべき春を信じて今は一歩ずつ歩み進めていこうと決意している。
ウ まだまだ辛く厳しい日々は続いているが、いつかはよい日も来るだろう。辛いことがあったことはもう忘れて、今を乗り切っていこうと語りかけている。
エ まだまだ辛く厳しい日々は続いているが、楽しい春の日はもう見えている。全ての喜びは今あなたの手の中にあることに気づいてほしいと呼びかけている。
解き方
問五のような内容に対する選択肢の問題が出てきたときはまず、同じ内容を言っているところをおさえることからはじめましょう。この問題の場合は「まだまだ辛く厳しい日々は続いているが、」という箇所が全ての選択肢に入っています。その点をおさえた上で以降の文をみていきましょう。
アは「良い時が来るとはまだ思えない」と書いてありますが、「みんなで希望をとりもどして涙をぬぐって働こう」という表現が2度使われており、詩全体に希望が見えることから、「良い時が来るとはまだ思えない」という内容はあてはまりません。
ウの場合は「辛いことがあったことはもう忘れて」という表現が使われていますが、そのような内容は書かれていません。また、まだ冬の日が終わったわけでもありません。エの場合においても、「全ての喜びは今あなたの手の中にあることに気づいてほしいと呼びかけている。」とありますがそのような内容も書かれていません。
よって正解はイ「まだまだ辛く厳しい日々が続いているが、一番辛いときは過ぎ去った。来るべき春を信じて今は一歩ずつ歩み進めていこうと決意している。」になります。確かに「一番辛いときは過ぎ去った」という表現が詩の中にあります。更に「みんなで希望をとりもどして涙をぬぐって働こう」と、“働こう”と表現していることから「一歩ずつ歩み進めていこうと決意している」様子もうかがえます。
まとめ
以上詩の解き方について説明しました。読解は難しいですが、他の現代文と同じくまずは問題で問われていること、更には下線部など該当箇所の前後をみることが大切です。