大学入試改革の影響を受け、中学入試における理科は、内容も出題傾向も変わりつつあります。これまで理科はどちらかというと「暗記科目」「直前期にまとめてやればなんとかなる」と思われがちでしたが、現在の中学入試の理科はそう甘いものではありません。
1問1答のような単純な知識問題だけ、という出題の中学校はまずなく、長いリード文を読み、条件などを整理しながら試行錯誤して解答を導き出す実験考察問題が中心的に出題され、そこでは文章読解力、そしてもちろん理科の基礎知識、それを現場で応用する力、データから読み取れる条件の抽出力といったさまざまな能力が試されます。
また、記述問題が増えているのも最近の傾向です。大学入試改革では思考力・表現力が非常に重視されますが、試行錯誤した結果解答をどのように導き出すかというプロセスを自分のことばで表現する記述力も中学入試の理科では欠かせない能力となっているのです。
理科は本来私たちの日常を取り巻く現象の集まりであり、自然に親しむ主観があればそれほどハードルが高い教科ではありません。しかし、現在では塾通いが忙しく、普段から自然に親しむ余裕がなかったり、大量の問題演習に追われてしまって一つひとつの理科現象について思いをはせる余裕がなかったりします。そして入試問題の傾向の変化も相まって、なかなか解けない、点数がとれないという結果になり、苦手意識を持ってしまう受験生は少なくありません。
今回は、お子さんが理科に親しみ、力をつけるためにはどうすればよいのかについて、最近の入試出題傾向を考えながら解説していきます。知識はもちろん大切ですがそれだけでは解くことができないのが最近の理科の入試問題です。思考力や表現力を養っていくためにも、理科の出題傾向をしっかりつかみましょう。
理科=暗記科目ではもはやない
理科は生物、地学、物理、化学の4分野に大別されますが、それぞれの分野で学習する内容が非常に多く幅広いほか、分野ごと、単元ごとに一見内容に関連性がないように見える教科です。そのため、「とにかくたくさん暗記しなければいけない」と考える受験生や保護者の方が非常に多いようです。
そのため、理科の受験勉強と言うと、とにかく知識をたくさん詰め込むことに注力しすぎてしまいます。たとえば生物分野の植物の単元では、春夏秋冬それぞれの季節にどのような花が咲くのかを覚えるのは基本ですが、そのように「とにかくたくさん覚えたもの勝ち」というのが理科の学習で重要だと考えられていることは否定できません。
たしかに、ある程度の基礎知識がないと、つまり「知らないと解けない問題」はたくさん存在します。ですから、暗記自体が悪いわけではありませんし、必要ではあります。しかし、最近の理科の入試問題では、どちらかと言うと暗記力重視というよりは、「思考力」「表現力」を重視する傾向にシフトしてきているのです。そのことをしっかり意識して受験勉強に向かう必要があります。
たとえば先ほどの花の例で言えば、どの季節にどんな花が咲くのかひたすら覚えてたくさん知識があることよりも、「なぜその季節にその花が咲くのか」ということを理解し、その考え方をもとに設問を解いていく力が求められているのです。
一見暗記問題に見えても実は思考力を試す問題が増えている
たとえば、アサガオは暖かい地方の原産で寒さに弱いです。小学校で夏休みにアサガオの鉢を家に持って帰ってきて観察日記を書く、というのは昔からの鉄板ですよね。そのことからもアサガオが夏に花を咲かせること自体はわかるでしょう。アサガオは寒さに弱いため、冬の間は種子の形で季節を越し、夏になると花を咲かせます。
一方で、アブラナは暑さに弱いという性質があるので、春に花を咲かせて夏は種子として季節を乗り越えようとする特徴があります。このように、花一つひとつに特有の性質があるからこそいつ花が咲くのかに差が出るのです。こうした植物のメカニズム自体、つまり原理原則をしっかり理解しておくことが、入試問題で解き負けないためのカギになることに注意しましょう。
暗記に頼りすぎると本番で足をすくわれることも
もちろん、まったく知識がなくては思考力を発揮することができません。そのため、ある程度の暗記は必要です。しかし、暗記に頼り過ぎた勉強法をおこなっていると、本番の入試で足をすくわれることになりかねません。また、模試などでも点数をとるのが難しくなるでしょう。
たとえば、物理分野の音のところで、「音速」について学びますよね。そのときに、テキストには「音速=340m/秒」と出ているのでそれを丸覚えしがちです。しかし、そのような単純な条件で解けるほど最近の入試問題は甘くありません。もしこのような条件で音速を計算させる問題が出たらどうでしょうか。「音速は気温が0度のときは毎秒331mです。気温が1度上がるごとに毎秒0.6mずつ速さが増します。では、気温5度のときの音速は何mですか」このような、単純な暗記では解けない問題が出題されることも少なくありません。
こうした問題が出たときに、単に「音速=340m/秒」と覚えていてそれを答えにすると不正解になります。条件に合わせて計算するしか正解を出す方法はありません。そもそも音速が340m/秒となるのは、1気圧で気温15度のとき、という条件付きです。このような条件を見落とし、単純な暗記問題と考えてしまうとまず正解はできないでしょう。
このように、最近の理科の入試問題では、問題文にさまざまな条件が書かれていたりグラフや表が出ていたりして、その内容を精読し、条件を抽出して、表やグラフを読み取ることができなければ正解することはできません。逆に考えれば、リード文の内容や条件をしっかり読み解くことができれば、暗記だけに頼ることなく、正解を導き出せるものも増えている、ということです。
暗記しなければいけない量は実はそれほど多くない
もちろん、入試対策として、必ず覚えておかなければいけない基礎知識や原理原則は存在します。テキストの分厚さを見ると膨大な量のように思えるかもしれませんが、必ず知っておかなければいけない最重要事項は実は思っているほど多くはありません。
お子さんにとって理科が嫌いになる、苦手になる理由の一つに「暗記しなければいけないことが多すぎる」という思い込みがあります。たしかに詰込みばかりの勉強では味気なく、思考力を養うこともできませんよね。まずはとにかく基礎知識から、という考え方自体は間違いではありませんが、大量の知識をひたすら覚えることから理科の学習をスタートしていた場合、途中で嫌気がさしてしまい、暗記に力が入らないばかりか、その後の思考力を要求する問題についても解いてはいるものの不正解を連発し、なかなか実力が向上しないでしょう。
入試では満点を取る必要はない!
まずは暗記を優先しないと、とお考えの場合、テキストの内容だけでは物足りずさらに参考書などで細かい知識を覚えさせようとする保護者の方は少なくありません。ですが、よく考えてみてください。なぜそこまでしてあれもこれも覚えないと、と思ってしまうのでしょうか。
それは、「試験でお子さんに満点を取らせたい」「満点とはいかなくてもいい点数を取らせたい」という気持ちが強すぎるからだと考えられます。もちろん、模試などで点数が取れないよりは取れたほうが安心ですよね。そして、満点を目指すこと自体も悪いことではありません。しかし、テキストや参考書の内容を意味も分からずにただ丸暗記するだけではそれは勉強ではなく「作業」です。本当の理科の勉強とは言えません。
そのように試験前に丸暗記して覚えた知識は、その試験が終わったらすぐにお子さんの頭から抜けていってしまいます。なぜなら、「なぜそうなるのか」という原理原則を意識しないまま、仕組みが分からないままただ字面だけを暗記しているからです。それでは時間の無駄であり、本番の入試に向けた効率的な勉強法とは言えません。
意識すべきなのは、ゴールである入試本番で、合格点を取ることです。入試では中学校ごとに出題形式や内容も異なるため、過去問などで対策を行いますが、過去問演習で満点を取れることはまずないでしょう。入試本番では、解けそうな問題から順に解き進み、確実に得点を重ねながら合格点を取ったもの勝ちです。中学校によって合格点のラインは異なりますが、おおよそ6割~7割5分程度が目安です。正答率もおおむねその程度です。ですから、まずは受験生の正答率が6割程度ある問題を確実に解いて、得点を重ねていくことが何よりも重要です。
そこに細かすぎる知識は実は必要ありません。原理原則と基礎知識がしっかり身についていることを前提に、その問題で設定されている条件を読み取り、表やグラフをヒントに解答していく、それが入試で点数を取るために必要なことです。ですから、正答率があまりにも低く、差がつかない問題にばかり意識を向けるのではなく、受験生ならみんなが解いてくるであろう問題を確実に取り、そして差がつくであろう少しひねった問題で点数を積み重ねることが大切です。つまり、細かすぎる知識が必要であったり、複雑すぎて解けない難問を取れなかったとしても十分合格ラインに達することができる教科、それが理科なのです。
中学入試の理科の勉強で必要なのは、広く浅い知識をひたすらおぼえることではありません。原理原則、基礎知識を深く正確に理解すること、そしてそれを初見の問題で活かす力を身につけることこそが大切なのです。それができれば、問題を実際に解きながら、たとえば選択肢問題でも「これは絶対正しい」「これは絶対間違い」ということが瞬時に分かるようになり、それだけ得点に結びつけることができます。まず必要なのは原理原則と基礎基本の知識です。それらを「理解」することが大切です。中心となる部分を確実に覚え、使いこなせるようにすることこそが理科の得点力アップに結び付きます。
好きな単元を見つけ、できるだけ実体験させてみることが重要
中学受験の理科には生物、地学、物理、化学の4分野があり、それぞれ植物、動物、人体、天体、気象、力学、電気、水溶液、中和など、様々な単元に分かれています。その単元は1回の授業で終わらせられるため、消化不良になってしまいがちな傾向にあります。理科が苦手になってしまうのは、「わかりそうなところで説明が終わってしまう」ため、宿題を解こうとしても解けないというフラストレーションがたまることも一因です。
まずは好き、得意から着実につぶしていこう
理科の成績を伸ばすためには、一度にたくさんの単元をマスターしようとするよりも、まずはお子さんが興味を持っている、どちらかと好きな分野や単元を見極めて、そこから勉強の型を見つけていくことが必要です。一度身についた勉強の型はほかの単元を勉強するときにも必ず役に立ちます。お子さんが興味を持っている単元の理解を深め、それに関する問題を解いてみることで原理原則の理解や使いこなせているかどうかをチェックすることをおすすめします。
そして、ひとつの単元で力がついてきたな、と思ったら次に抵抗のない単元に取り組み、それができたらまた次の単元へ移る、というステップを踏むことが大切です。苦手分野を克服することはとても大切ですし、最終的には必ずやらなければならないことです。しかし、いきなり「嫌い」な単元から学習させようとしてもお子さんは集中して勉強しないでしょう。なぜなら、「わかっていない」という自覚があり、それをどう克服したらよいのかわからないからです。また、問題を解こうとしても解けないことも分かっているので、やる気を出させようとしてもそれは難しいことです。
そのため、まずは好きな分野をしっかり固めることから順々にプロセスを踏んで、克服しなければいけない弱点分野を減らしていきましょう。最終的に必ず克服しなければならず、それはなかなかつらいことですが、一度勉強の型ができれば、同じようにすることで少しずつ弱点を克服し、「わかる」「できる」というステップを踏んで問題が解けるようになっていくのです。できるだけ最初のうちは得意と言える単元を増やしていき、それから苦手なところに移っていけるだけの気持ちを養うことが大切です。
理科では実体験をできるだけ積むのがおすすめ
入試の理科でまず身につけたいのは、理科の現象を理解し、原理原則と基礎知識をしっかり押さえるということです。そうするとテキストだけの勉強を思い浮かべるかもしれませんが、実は日常生活の中でも理科の現象を理解したり原理原則を確認したりできる機会はたくさんあります。
お子さんは、本来非常に知的好奇心、なかでも科学に対する好奇心が旺盛です。自然に触れることや、動物が嫌いというお子さんはあまりいないですよね。そういったことからも、本来、理科はお子さんたちにとって興味を持って取り組むことができる教科のはずなのです。本来お子さんが「好きな」理科という教科をマスターするためには、その「好き」の気持ちを伸ばしてあげる環境づくりも大切です。
理科の成績を上げるひとつの方法として、お子さんに理科的な実体験をさせてあげることをおすすめします。たとえば自然の中で遊ばせてあげたり、動物園や植物園、博物館などに出かけたりして、さまざまな経験を積むことが理科好きになる第一歩です。いろいろなものを見たり、実際に触れたりすることは、お子さんの知的好奇心を大きく刺激します。
そうした体験の中で、お子さんは「これは何だろう?」「なぜこういうつくりになっているんだろう?」「どうしてこうなるのだろう?」など、さまざまな疑問を抱いていきます。それこそが大切なポイントです。疑問があり、それを解決すること、それこそが入試で求められている力だからです。課題を設定し、試行錯誤し、解決法を見出して表現する、そうした一連の力を養う近道だと言えるでしょう。
このようにお子さんが抱いた疑問は、のちに学習したことと結びつくことで解決します。そうすると、「こういうことだったんだ」ということが分かり、疑問が解消して大きな達成感を感じることができます。この「達成感」が理科の実力を上げていくうえで、また理科に抵抗を持たないために非常に重要なのです。こうした経験を何度も繰り返すことによって、お子さんは「もっといろいろ知りたい」と思うようになります。それこそが自分自身で知的好奇心を刺激するというプラスのループになるのです。そうすると、理科の原理原則を深く理解しようと無意識のうちに行動し、学習し、自分の力で苦手な分野も克服していく意欲を持つことができます。
また、お子さんにはまだ少し難しいかな?と思えるかもしれませんが、体験イベントや講演会などにも足を運んで、その道の専門家の話を実際に聞いたり、体験型のアクティビティに参加することも、理科的好奇心を刺激し、また正しい知識を得るのに大きなプラスになることでしょう。内容が専門的だとすべて理解することは難しいかもしれませんが、それでもかまわないのです。見たり聞いたりしたことの一部でもお子さんの記憶に残ることによって、その後の学習で「これはあのときの話の内容だ」「これはあのとき体験したことと結びついている」という発見があり、知識と知識が結び付き、またひとつ克服することができるのです。
インターネットの利用には注意を
最近では、インターネットを使わない日はないのではないでしょうか。ご家庭でもインターネット環境が整っていることでしょう。最近ではご家庭での理科の学習にインターネットを利用するケースが増えつつあります。インターネット上にはさまざまな情報があり、たとえば実験動画をみることもできますし、非常に詳しくある現象を説明しているサイトもあります。
わからなかったことがインターネットによって解消されることも少なくありません。ただし、インターネットを使うことには注意点もあります。いくら実験動画を見たとしても、それはお子さん自身が実際に体験しているのとは違いますよね。もしインターネットを利用するのなら、実験動画を見て、ご家庭で実際に再現するところまでやってみることをおすすめします。実際に体験していないのに分かった気になってしまうのがインターネットの弊害でもあります。
たとえば、慶應中等部では、理科のレポート提出が非常に有名なのですが、レポート作成の際には文献を自分で調べることが求められ、インターネットの参照は禁止です。インターネットにはある意味答えが溢れていますが、それに流されてしまってはいけない、文献からヒントを得て自分で仮説を立て、解決法を導き出していくことを重視しているのです。また、コピペ問題もあるのでしょう。自分の頭で考えなければいくら時間をかけても良い評価がもらえないようになっていまう。理科は条件次第でいくらでも結果が変わる教科です。このような中学校の取り組みも、理科でのインターネット利用の危険性を表していると言えるでしょう。
インターネットは勉強のヒントであり、中には間違った情報もありますのでうのみにするのはよくありません。参考にとどめて、実際に経験をしてみることが大切です。見ることとやってみることは違うという意識を持ってインターネットを理科の学習に活用するようにしてください。
暗記では解けない!実験考察や時事問題が増加
以前は、理科の入試問題と言うと、いわゆる知識を答えさせる知識問題や、計算問題の集合問題が中心的に出題されていました。しかし最近はこうした単なる知識問題や計算問題だけ、という出題は非常に減ってきており、どちらかと言うと長いリード文を読み、条件や表・グラフなどの読み取りが正確にできているか、それらをもとに考察ができるか、そして計算問題に持ち込めるか、といった一連の「思考力を問う問題」が非常に増えてきています。
もともと難関校ではこの傾向は顕著であり、偏差値おおむね60以上の中学校の多くは以前から問題の7割から8割をこうした思考力を問う問題が占めてきました。そして今、中堅校などにもこうした思考力を問う問題が出題されるようになり、すそ野が広がっていると言えるのです。
思考力を問う問題とはどんな問題?
思考力を問う問題とは、リード文や図、表、グラフなどのヒントから条件を読み取り、各設問に答えていく問題です。出題パターンとしては大きく2つに分かれます。ひとつは、実験の説明や測定値が問題文に書かれており、そこから自分でグラフを作成し、そのグラフからわかることを記述する問題です。もうひとつは、仮説を立てて、確認実権をし、実験結果を考察している一連のリード文や図・グラフ・表などを読み進み、設問に一つひとつ答えていく、という問題です。
たとえば、開成中学校の2019年度の入試の理科の問題では、「アリの実験」に関する問題が出題されました。アリの巣とエサの間に迷路を設置して、アリがどのように移動するのか仮説を立て、さまざまな条件のもと実験を行い、アリが出すフェロモンについて考察する、という問題が出題されたのです。細かい知識が問われているわけではなく、その場で試行錯誤する問題の典型的なものだと言えるでしょう。ただし、条件をひとつ読み間違えると芋づる式に失点してしまうという怖い問題だったとも言えます。
このように、ある実験を題材として思考力を問うような問題は、特に生物、化学、物理の分野でよく出題されます。地学の場合は、最近は時事問題の出題が非常に増えています。地学では地震や宇宙ステーションなど、実際に話題になったことを取り上げた問題がよく出題されます。
たとえば、実際に起こった災害を題材として雨量を計算させる問題や、天気図を読み解かせる問題などは頻出です。また、今後首都直下型地震が起こる恐れもあることから、地震や火山に関する問題は時事問題とも絡めた形で出題されることが多いです。この傾向は当分続くと考えられます。
出題傾向の特徴を理解したうえでていねいな学習が必要
こうした最近の理科の入試問題の出題傾向の特徴をしっかり理解したうえで対策をすることが必要です。単なる知識や計算力だけでは解けない問題が数多く出題されますが、ではひたすらたくさん問題を解きまくればできるようになるというものでもありません。一つひとつの問題をしっかりと読み解き、条件を整理し、試行錯誤しながら設問を解いていくという、非常にていねいな勉強が要求されます。
また、パターン問題はまず出題されませんので、問題を解く際には「こういう場合はこうなる」「なぜこうなるのか」疑問を持ち、解決するための方策を自分自身の頭で考え、表現することが何よりも大切です。たくさん問題を解いているから大丈夫、と考えるのではなく、初見の問題が出たときに自分の記憶の引き出しからどれだけ解法のヒントを出せるか、それこそが大切だということを忘れずに学習を進めましょう。
リード文や設問の長文化、知識問題の変化
また、最近の理科の入試問題の特徴として、「問題の長文化」が挙げられます。先ほどご紹介したような、実験をテーマにした問題の場合、どのような条件の下で実験したのか、どのような結果が出たのかをリード文で説明しているため、どうしてもリード文が長文化しがちです。そして、その中にすべての情報が入っていると言っても過言ではありません。また、設問一つひとつで条件が加えられることもあるので、設問も長文化している傾向があります。
そのため、リード文や設問などの文章を細かく精読したうえで中に入っている条件を取りこぼしなく抽出し、整理することが求められます。それができないといくら考えても設問を解くことはできません。難関校の場合は、リード文や設問合わせて5,000字を超えることも少なくありません。ちなみに、2018年度の麻布中学校の理科の入試問題では、9,000字を超えているという超長文の横綱級の問題が出題されました。このことからも、今後問題の長文化は避けて通れない壁だと言えるでしょう。
思考力を要求する問題が増加しており、またそれにともないリード文や設問を合わせた問題文が長文化しているのが最近の理科の傾向ですが、実はその一方で、非常に基礎基本の知識事項を確認する問題も出題されているのも最近の理科の入試問題の特徴です。
たとえば、生物分野では昆虫の体のつくりや育ち方をたずねる知識問題やよく出題されています。ただし、単に1問1答で正解できるような単純な問題形式にはなっていないことに注意が必要です。アリやクモの足のつき方を、解答用紙にある胴体部分の図に実際に書き込ませたり、鳥のくちばしを書き加えさせたり、カブトムシの絵を見て「胸」に当たる部分を塗りつぶさせたりする問題は頻出です。海城中学校では、サケの切り身の背骨を書き込ませるという問題が出題されたこともあります。
しかし、これらの問題で要求されている知識レベルそのものはいわば受験生なら誰でも知っている定番中の定番の知識ですよね。ですが、足が6本、と答えるのと、実際にどのような生え方をしているのかを図に描き込むのとでは、難易度が大きく変わるのです。見た目の違いもさることながら、一歩先行く知識の定着度を中学校側は重視していると言えるでしょう。
とは言え、知識問題はいわば受験生に対するプレゼント問題のようなものです。正確な知識を理解できていれば、見た目が違うだけで解けない問題ではありません。むしろ形式で差がつくので、正解できればそれだけ合格に近づくことが出来る問題だという意識を持ちましょう。
こうした知識問題対策としては、塾のテキストの文章だけを丸暗記するだけでは太刀打ちできません。実際に手を動かして描いてみて、より深く知識を理解し、覚えていくことが必要です。また、観察力も必要です。このように、知識問題の出題方法も大きく変わっているのが最近の理科の入試問題の特徴であり、それを克服するためには普段の学習の取り組み方が重要だということを知っておいてください。
理科の入試問題で求められる力とは
中学入試は、最近非常に様変わりしています。1教科入試や英語入試の導入など、中学校によってさまざまな入試方式が用意されています。ただし、やはり主流と言えるのは国語、算数、理科、社会という4教科入試だと言えるでしょう。もちろん、算数と国語の2科入試を行っているところや洗濯できるところも多いので、算数と国語の基礎力を見て中学校側が受験生の学力を把握し、理科と社会は中学校に入ってから伸ばす、という考え方のところもあります。
では、なぜ4教科入試が中心で、理科と社会の試験も行うのでしょうか。理科の入試問題を考えてみると、中学校側が受験生に要求している力がよくわかります。それは、受験生の「理科的なものの見方」そして「思考する力」と整理されるでしょう。長いリード文を理科的な視点を駆使しながら読み進み、実験結果を見て考察させる思考力、解ききる力こそが、中学入試の理科で求められる力だと言えます。
中学校に入学すると、理科は生物、地学、物理、化学の4分野それぞれに分かれて授業が行われ、分野ごとに内容を掘り下げて学びます。理科実験質も分野ごとに4つそろえている中学校も少なくありません。それだけ理系志向が強く、受験生にも理科的好奇心を持って入学してほしいという思いを持っているのでしょう。
小学校では理科は実質的には4分野に分かれていますが、全般を幅広く浅く学びます。塾でも同じですね。そこで求められているのは細かい知識をたくさん知っているかどうか、というより、まずは科学現象など、身の回りで起こっているさまざまなことがらを、理科的な視点でとらえることです。疑問がわいたならそれを自分で調べて納得できるまで理科的に考える力をつけることが中学校以降の理科の学習に生きてくるため、中学入試の理科でもそうした能力が求められるのです。
出題する中学校側も、単に丸覚えしてきた知識を単純に答えさせるような入試問題では暗記力勝負となってしまい、理科的な素養を測ることができないということはわかっています。中学入試で求められる理科的能力とは、「どれだけたくさんの知識を覚えてきたか」ではなく、「どれだけ注意深く観察してきたか」「どれだけ試行錯誤できるか」「どれだけ根気よく条件を読み取れるか」ということです。
このような理科的視点と思考力こそが中学入試の理科では求められています。塾のテキストでの勉強ももちろん大切ですが、資料集や小学校の教科書に出ている実験などについても正確に理解しておくことが基礎基本となります。そして、「なぜこういう結果になるのか」「どうしてこのようなしくみになっているのか」という疑問を常に持ち、好奇心を持って学習することが求められます。今後の勉強では、一つひとつの問題について、仮設を立て、実験し、結論を検討するというプロセスを踏むことをぜひ意識してください。実験考察問題は入試の中心です。こうしたプロセスを踏むことで、理科の点数は上がっていきますよ。ぜひ意識してやってみてください。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。